「川口さん、よく知ってるね」
「あ、うん。従姉(いとこ)が家でゴールデンレトリバーを飼ってたの」
「そうなんだ。過去形ってことは、今は……?」
「あー……うん。三年前かな。十歳のときに老衰で……」
「そう……」

 智基くんの表情が曇り、会話の運び方を間違ったことに気づく。

「あの、でも、すごく長生きしたゴールデンレトリバーもいるって聞いたことあるよ! 二十歳くらいまで生きたとか。ギネスブックにはもっと長生きした子が載っていたような……」

 従姉からの受け売りの知識で、はっきりとは覚えていないのが悔やまれる。ああ、なんでもっとちゃんと聞いておかなかったんだろう!

 智基くんが穏やかに微笑む。

「ありがとう」

 そのとき事務室から店長さんが出てきた。もう閉店の時間なのだ。

「お預かりします」

 私は智基くんから二冊の本を受け取ってレジに行った。バーコードを読み取っている間に、智基くんがレジにやって来る。金額を伝えて本をビニール袋に入れた。お釣りを返すときに智基くんの手が一瞬触れて、触れた指先が熱を帯びる。

「あ、あり、ありがとうございましたっ」

 動揺して噛んでしまったのが恥ずかしい。