智基くんに喜んでもらえた! それが嬉しくて胸が温かくなる。黙ったままレジカウンターに戻ろうとすると、智基くんに呼び止められた。

「あのさ、もう一冊ほしい本があるんだけど、いいかな」

 振り返ると、智基くんはペット関係の本が並ぶコーナーの方を見ていた。

「うん、いいよ」

 参考書を預かろうかと思ったけど、智基くんはもうペットコーナーに向かっていた。そうして棚に並んだ背表紙をざっと見てから、一冊の本を手に取った。タイトルは『老犬の適切な飼い方ガイド』だ。

「あれ、智基くん、犬飼ってるの?」
「うん。ゴールデンレトリバーなんだけど、もう九歳なんだ」
「そっかぁ。じゃあ、もうおじいちゃん……おばあちゃんかな?」
「おばあちゃんだよ」

 智基くんは少し切なそうに笑った。ゴールデンレトリバーは飼い主に従順で、性格も優しい。智基くんの雰囲気に似ているかも、と思わず微笑みかけて、口元を引き締めた。智基くんはきっと、愛犬にできるだけ長生きしてほしいと思って、本を買いに来たんだろう。それなのに笑うなんて不謹慎だ。

「ゴールデンレトリバーの寿命は十二歳くらいだったっけ……」

 思わずつぶやくと、智基くんが目を丸くして私を見た。