私はゴクッと唾をのみ込み、大きく息を吸い込んでレジカウンターから出た。そうして参考書コーナーに向かう。

 そこでは智基くんが高校数学の参考書をパラパラとめくっているところだった。

「よ、横山くん」

 声が震えているのが情けない。

「あ、もう閉店かな?」

 智基くんが顔を上げた。申し訳なさそうに問われて、私は首を左右に振る。

「ううん、まだ大丈夫。あの……数学の参考書を探してるの?」
「うん、そうなんだ。今教えてる子、前に買った参考書じゃ、ちょっと簡単すぎるみたいで」

 智基くんが別の参考書を手に取った。私は勇気を出して口を開く。

「あ、あの、こっちの参考書、わりとよく売れてるんだけど……」

 おずおずと棚の一角を指差すと、智基くんは私の指の先へと視線を動かした。

「これは使ったことないな」

 そう言って一冊抜き出し、数ページめくる。問題をじっと見つめる智基くんの横顔はとても真剣で凛々しくて……見とれてしまう。

「うん、これよさそうだな」

 智基くんが私の方を見たので、バッチリ目が合ってしまった。驚いて目を見開く私に、彼は嬉しそうに笑いかける。

「いいのを教えてくれてありがとう。助かったよ」