「それなら私も持ってるよ! 私が貸してあげるっ」
「え、そうなんだ。じゃあ、お願いしようかな」
「うん、任せといて~。さっそく明日持ってくるから。あ、それとも、今日、授業が終わってから、私の部屋に来てくれてもいいよ? 私、大学の近くでひとり暮らしをしているし」

 相田さん、すごく積極的だ。本当なら私が智基くんに貸すことになってたはずなのに……。悔しい気持ちになったとき、智基くんが胸の前で小さく手を振った。

「いいよ、そんなに急いでないし。それに俺、今日バイトなんだ」
「えーっ、そうなの! じゃあ、バイト先に遊びに行っちゃおうかな」

 相田さんは智基くんの方に体を寄せる。

「それはちょっと無理かな。家庭教師のバイトだから」
「そうなんだ! 智基くん、頭いいもんね~」
「そんなことないよ」
「えー、あるよぉ」

 相田さんが智基くんの腕に軽く触れるのが見えた。食堂のざわめきの中、ふたりの会話が弾み、ふたりだけの世界ができ上がっていた。胸がちりちりと焦げるように痛んで、この場から逃げ出したくなる。

 これじゃ今までの恋と一緒だ。好きな人がほかの人のものになるのを、ただ見ているだけ。なんとかしたい。なんとかしたいのに……今も指をくわえて見ているだけ。