「では尾形さんのご依頼は、死因の究明と、元恋人に想いを伝えること、ですね」
「……はい。あの、私、勢いに任せて話してしまったんですけど、本当に叶えていただけるんでしょうか?」

 状況が飲み込めない知春は、千聖の心を代弁するかのように、雷蔵に質問した。

「もちろんです。それがこの店の役割ですから。ただ、一つだけ条件があります」
「条件?」
「あなたの願いを叶えるために、この店の中から一点、必要だと思われる商品を購入していただきます」
「ええっ! 購入って言われましても、私お金なんか持ってな……あれ?」

 知春がスカートのポケットを探った時だった。チャリ、と金属どうしの擦れる音がして、中からいくらかの硬貨が出てきた。中には五百円玉もある。雷蔵はそれを見越していたかのように、微笑みながら頷いた。

「いつの間に……私、小銭なんて入れたかしら?」
「これも、必然なんです。生前、あなたは無意識のうちに、そのポケットにお金を入れたんでしょう」
「そう、なんですね……。十年も気付かないなんて、私、すっごく間抜けですね」
「あなたにとっては、十年があっという間に感じたかもしれません。ここは、黄泉でも現世(うつしよ)でもない、狭間の世界ですから。時の流れが存在しないんです」
「狭間の世界……」
「ここでは、現世に未練を持つ死者の魂が、黄泉に行けないまま、数多く彷徨っているんです。尾形さんはそのうちの一人、ということになります」

 知春が店に入って来た時、確かに雷蔵はここが『狭間世界の雑貨店』だと言った。その意味はこれだったのだ。

(外の景色がぐちゃぐちゃなのは、ここがその狭間世界だからってこと?)

 それでもぶっ飛んでいる現象であることに間違いないが、超常現象を目の当たりにして、ようやく、千聖の中で点と点が繋がっていく。雷蔵にはこういう世界にやってくる特殊な能力があって、ここで浄化されずに彷徨っている魂を助ける手伝い――いや、商売をしているということだ。

「それなら、願いが叶えられたら、私はもうこの世界から離れられるということですか?」
「そうです。黄泉で心安らかに過ごせます」
「よかった……ずっと一人で、不安だったから……」

 知春の目に涙が浮かぶ。自身の命が絶たれた覚えがなく、この世界に来てそれを認識するなんて、この上ない絶望と孤独感に苛まれただろう。さめざめと泣くのを見ていられず、千聖は彼女に寄り添い、その揺れる肩に優しく触れた。雷蔵が千聖に目配せして、「ありがとう」と伝えてくれている。