(随分若くておっとりしてる店長さんだけど、大丈夫かな)

 まずは話を聞いてみて、それから判断すればいいと、千聖は彼の後についていくことにした。男性は入り口の扉を鍵で開け、中に入っていく。照明の点いていない店内は薄暗いが、外の光である程度は見渡すことができた。

(おしゃれな小物が、たくさんある。これとか、可愛い……)

 アンティーク調の棚が壁一面に並び、文房具、食器類、クッションやぬいぐるみ、バッグやアクセサリーなどのファッション小物、その他にも生活雑貨が陳列されている。比較的女性向けのものも多いが、中には男性用と思われるタイピンやハンカチ、帽子なども置かれていた。男性店長だからこその品揃えだろう。

 店長はレジカウンター奥の『STAFF ONLY』というプレートのついた扉を開け、千聖を手招いた。それ以上は立ち止まって見る暇もなく、千聖は急いで店長に続く。

 中は簡素なロッカールームになっていた。休憩所も兼ねているようで、小さな丸テーブル一台と木製の椅子が二脚、セットで置いてある。千聖は促されるまま椅子に掛け、店長はメモ用紙とペンを持って、千聖の向かいに座った。もう面接を始めるようだ。千聖は焦った。

「あの、興味があるとは申し上げましたが、まだ働きたいと決めたわけじゃ……」
「うん。僕の話を聞いてから、じっくり考えてもらって構わないよ」
「そ、そうですよね。よかったです」

 それを聞いて、千聖は頬を緩めた。店長も目を細めて微笑んでいたが、そこにはなにか、確信めいたものが浮かんでいる。まるで、「千聖はここで働くに違いないだろう」と言いたげだった。

(なんか、神秘的な人だな……。人間っぽくないというか)

 何もかも見透かしているような店長の柔らかい表情に、千聖はじっくりと見入ってしまった。初めてのアルバイトの面接で、緊張すべき場面なのだが、驚くほど心が落ち着いている。これも店長の効果だろうか。

「これが僕の名刺です」
「ありがとうございます」

 革製ケースの上に名刺を乗せ、店長は丁寧に千聖へと差し出した。『雑貨 Hyssop 代表 鳴神雷蔵(なるかみ らいぞう)』と書かれてある。

(い、意外……!)

 目の前の美男子と、『雷蔵』という名前があまりにもアンバランスで、千聖は目を丸くした。芸能人が使うような名前だし、インパクトが強く、誰からもすぐに覚えられるだろう。だからといって、彼に似合わないこともない。店長を見つめていると、次第に馴染んでくるから不思議だ。