狭間雑貨店で最期の休日を

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 千聖と雷蔵は、信一と別れて地元へと帰ってきた。新幹線の中で、千聖は熟睡してしまうほど、相当疲れている。長丁場が、ようやく終わりを告げそうだ。

 だが、千聖は、充足感と達成感に浸っていた。十八年生きてきて、これほど怒濤の展開があった一日を過ごしたことはない。想像を遥かに超えてはいたが、これからもこの仕事に関わっていたいと思わせるには十分だった。雷蔵も、千聖がそう思うことを見越していたのだろうか。

「随分と帰りが遅くなってしまったね。日付が変わるギリギリだけど、羽根田さんのご家族、本当に怒ってないかな?」
「大丈夫だと思います。母からは、明日も朝が早いので、『先に寝てる』って連絡がありました」

 雷蔵は千聖をアパートまで送ると言って、ついてきてくれている。深夜の道を歩くのは不安もあったので、千聖はその厚意に甘えることにした。イケメンの店長に送ってもらったなど、麻唯子が知ったら驚きで飛び上がるだろう。

「そうか。お父様は? いくら大学生になったと言っても、娘がこんな時間まで外にいたら心配するんじゃない?」
「……父は十年ほど前に亡くなりました。今は、母と二人暮らしです」
「え、そうだったの? ずけずけと聞いてごめんね。家族構成まで面接で聞かなかったから……」
「いいえ、慣れっこです。父にも、今日の境さんみたいに、結婚したいとまで思った相手を最後まで大切にしてほしかったな……」

 千聖のその言葉で、何かしら事情があることは、雷蔵も察してくれたようだ。それ以上は聞いてこなかった。代わりに軽く相槌を打って、千聖の頭をぽんぽんと撫でた。

「ひぇっ……! な、なんですか!?」

 千聖は驚いて横に飛び退いた。ブロック塀にぶつかりそうになり、慌てて雷蔵が肩を支えてくれる。それにすら緊張してしまい、千聖はおろおろと落ち着かない。雷蔵はしばらくして吹き出した。

「お疲れさまって意味だったんだけど……。びっくりさせたならごめんね」
「それなら、声に出して言ってください! 頭を撫でられるとか……男の人に初めてされたので、心臓が飛び出るかと思いました」
「ごめんごめん」

 雷蔵はちっとも反省する気配もなく、まだくすくすと笑っている。穏やかで優しい人だという印象だったが、人をからかうような一面もあるのだ。千聖は自分が子どもっぽいことを自覚しながらも、ぷくっと頬を膨らませた。

「えっと、それでどうする? アルバイト、やってみる?」
「え?」
「僕としては、ぜひ羽根田さんをうちで雇いたい。君には、思いやりと行動力、勇気もある。他の適任者はなかなかいないと思うんだ」