「ほ、本当に……? いや、でも……。あの、それで、あなたは何をしにここへ?」
「知春さんの想いを、あなたにお伝えしにきました。それと、知春さんは、ご自身がどうして亡くなったのかが分かっていません。死因を知りたい、とのことです」
何かを交渉するでもなく、ただ単に知春のためだけにやってきた千聖を見て、信一はようやく心を動かし始めたようだ。空っぽの座席を見つめながら、「知春……?」と慈しむように小声で呼んだ。知春は何度も頷いて返事をしている。
「死因なんて、聞いて気持ちのいいものではありませんよ……」
「……どうしますか、知春さん?」
千聖はわざと、信一からは姿の見えない知春に向かってそう聞いた。この際、他の客に気味悪がられようが、どうでもいい。今はとにかく、知春の願いを成し遂げてやりたいのだ。
「聞きたいです。覚悟はしています」
「覚悟はできているので、聞きたいそうです」
「……分かりました」
千聖は、知春から聞いたままを伝えた。信一は未だ半信半疑だ。だが、運ばれてきたばかりの、メインディッシュのステーキには手をつけずに、ぽつりぽつりと語り始めた。
十年前の十二月二十四日。クリスマスイブ。その日は信一の誕生日だ。二人は、互いの誕生日を、毎年このレストランで祝う約束をしていた。それは、もし誕生日に喧嘩をしていても、『めでたい日はちゃんと祝おう』という決まり事が、二人の間にあったから。当然その日も、仕事帰りにここで落ち合い、楽しい時間を過ごしたそうだ。
信一は、知春からネクタイをプレゼントしてもらった。翌日の仕事に着けていくと、喜びながら食事を終え、レストランを出た。
「あ……! そこまでは覚えています」
「知春さんが、そこまでは覚えているって仰ってます」
「……そう、でしょうね。知春が亡くなったのは、その後すぐでした」
千聖が知春の言葉を橋渡しした直後、信一は酷く項垂れた。その目が、じわりと潤んでいく。
「全国ニュースにもなりましたが、すぐ近くの大通りで、通り魔事件が発生しました」
「……え?」
「知春はっ……ナイフを持った犯人に、刺されそうになった僕を庇って、背中側から、心臓を……」
「わ、分かりました! 辛いことを思い出させてしまい、申し訳ありません……!」
いくらなんでも惨いと、千聖は信一の言葉を止めた。千聖の脳内にも、僅かだが十年前にテレビを騒がせた凶悪な通り魔事件のことが残っている。その被害者に、知春が含まれていたのだ。
「知春さんの想いを、あなたにお伝えしにきました。それと、知春さんは、ご自身がどうして亡くなったのかが分かっていません。死因を知りたい、とのことです」
何かを交渉するでもなく、ただ単に知春のためだけにやってきた千聖を見て、信一はようやく心を動かし始めたようだ。空っぽの座席を見つめながら、「知春……?」と慈しむように小声で呼んだ。知春は何度も頷いて返事をしている。
「死因なんて、聞いて気持ちのいいものではありませんよ……」
「……どうしますか、知春さん?」
千聖はわざと、信一からは姿の見えない知春に向かってそう聞いた。この際、他の客に気味悪がられようが、どうでもいい。今はとにかく、知春の願いを成し遂げてやりたいのだ。
「聞きたいです。覚悟はしています」
「覚悟はできているので、聞きたいそうです」
「……分かりました」
千聖は、知春から聞いたままを伝えた。信一は未だ半信半疑だ。だが、運ばれてきたばかりの、メインディッシュのステーキには手をつけずに、ぽつりぽつりと語り始めた。
十年前の十二月二十四日。クリスマスイブ。その日は信一の誕生日だ。二人は、互いの誕生日を、毎年このレストランで祝う約束をしていた。それは、もし誕生日に喧嘩をしていても、『めでたい日はちゃんと祝おう』という決まり事が、二人の間にあったから。当然その日も、仕事帰りにここで落ち合い、楽しい時間を過ごしたそうだ。
信一は、知春からネクタイをプレゼントしてもらった。翌日の仕事に着けていくと、喜びながら食事を終え、レストランを出た。
「あ……! そこまでは覚えています」
「知春さんが、そこまでは覚えているって仰ってます」
「……そう、でしょうね。知春が亡くなったのは、その後すぐでした」
千聖が知春の言葉を橋渡しした直後、信一は酷く項垂れた。その目が、じわりと潤んでいく。
「全国ニュースにもなりましたが、すぐ近くの大通りで、通り魔事件が発生しました」
「……え?」
「知春はっ……ナイフを持った犯人に、刺されそうになった僕を庇って、背中側から、心臓を……」
「わ、分かりました! 辛いことを思い出させてしまい、申し訳ありません……!」
いくらなんでも惨いと、千聖は信一の言葉を止めた。千聖の脳内にも、僅かだが十年前にテレビを騒がせた凶悪な通り魔事件のことが残っている。その被害者に、知春が含まれていたのだ。
