狭間雑貨店で最期の休日を

「ええと……お客様の個人情報はお教えできない決まりでして。申し訳ありません」
「そこを、なんとかお願いします! 時間がないんです!」
「私に言われましても……」
「でしたら『尾形知春さんのことでお話に来ました』と、それだけでも境さんにお伝えいただけませんか?」

 知春の名前を聞いたスタッフの顔色が変わった。知春が亡くなって以降、信一がずっとこのレストランを利用しているのであれば、その名前を知っていてもおかしくはない。数秒間ぽかんとしていたスタッフは、我に返ったように頭を下げ、テーブル席の方へと向かった。そしてすぐに戻ってくる。

「境様が、ぜひともお話を聞きたいそうです。どうぞ、こちらへ」
「……ありがとうございます」

 この店のスタッフには、信一と千聖の関係性など全く予想もつかないだろう。じろじろと観察こそされたが、千聖は真っ直ぐに信一を見据えて近付いた。信一は千聖を見て、戸惑いがちに立ち上がって挨拶をする。

「ええと、僕が境信一です。知春の知人の方ですか?」
「はい。羽根田千聖と申します」
「どうぞ、そこに掛けてください」

 信一はふんわりと微笑んで向かいの席を指したが、千聖は気が引けてしまい座れなかった。

 スタッフに再度無理を言って、もう一つ、予備の椅子を出してもらった。今は、本来座るべきだった知春が信一の向かいに座っている。とても――言葉では表現できないほどに嬉しそうな顔をして、知春は泣いていた。

「失礼ですが、僕には随分と若い方に見えます。知春とはどういったご関係ですか?」
「あの、正確には知り合ったばかりなんです。尾形さん……いや、知春さんに、ある頼まれ事をして、境さんを探していました」
「知り合ったばかり……え……? なに、を……?」

 要領を得ない千聖の発言に、信一は笑顔を浮かべたまま固まった。このままでは冗談を言っていると思われてしまう。千聖は慎重に、彼に信じてもらう手段を考える。

「私は、ただの大学生です。ですが、少し人とは違う力がありまして。この世に未練を持つ人の魂が見えるんです」

 特別な力を持っているのは雷蔵だが、千聖はこの場では彼の代理だ。多少の嘘は仕方ない。信一は、予想通り唖然としている。

「……え、ちょっ……ちょっと待ってください。オカルト系の話は、僕は信じませんよ? 新手の詐欺ですか?」
「違います。現に、このレストランに連れてきてくれたのは、尾形知春さんご本人です。今、ここに座っています。今日は、知春さんの誕生日ですよね? ここで、お祝いをされていたんですよね?」

 千聖の言葉に、信一は狼狽えながら、目の前の座席を見た。彼には、知春の姿が見えない。知春は、「信一さん、私ここにいます……!」と聞こえないながらも訴えている。