(これじゃ、ただの探偵ごっこだよ……。早く、見つけないと)

 二時間以上は歩き回って探しただろうか。時刻は午後五時を回った。少し休憩を取ろうと、千聖が交番近くの公園でベンチに腰掛けた時、スマートフォンが電話の着信を告げた。知春と共に行動している雷蔵からだ。新幹線で連絡先を交換しておいたのだ。

「はい、もしもし」
「もしもし、羽根田さん? 境さんの住んでいるマンションが分かったよ。ちょうど隣に住んでいるっていう人に巡り会った」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。地図を送るから、こっちに合流してくれる? 今は不在みたい」
「はい!」

 一筋の希望の光が見えてきた。千聖はベンチから跳ね上がり、雷蔵からチャットメッセージで送られてきた地図を頼りにして、目的のマンションへと向かう。

(あまりにも運がいいというか。雷蔵さんって、そういう力も『持ってる』んじゃないかな?)

 人の縁を引きつけるような、雷蔵の強運。もしかしたら、偶然かもしれないが、なぜか千聖にはそれが特別なことに思えてならない。雷蔵は全てを見越していて、あれほど落ち着き払っていたのではないだろうか。

 とにもかくにも、マンションさえ分かれば、あとは信一の帰宅を待つだけだ。遠出でもしていない限りは、もうすぐ会えるだろう。千聖は一人、期待に胸を膨らませて微笑んだ。



*****



 午後八時。千聖の胃が空腹を告げるが、未だ信一はマンションに帰ってこない。もしかすると、小旅行や実家の方に出ていて、どこか別の場所で宿泊してくるのではないか。そういうことも考えられてしまい、千聖はそわそわと落ち着かなくなってきた。

「羽根田さん、先に帰る? ご両親が心配するよね。プレゼントなら僕が預かるし」

 千聖が小刻みに動いている原因を、早く帰りたいのだと勘違いした雷蔵が、そう提案してきた。千聖は、とんでもないと強く首を横に振る。

「いいえ! ここまできたら、私も見届けたいです!」
「でも、さすがに店の営業時間をとっくに過ぎても帰ってこないとなると、きっとものすごく心配するよ?」
「大丈夫です。友達の家に呼ばれたってことにして、親には連絡するので」
「……バレた時が怖いんだよなあ」

 雷蔵の苦笑いをよそに、千聖は母の麻唯子に向けてメールを送った。夕食も既に準備してくれていただろう。千聖の「ごめんなさい。遅くなります」という言葉に対し、麻唯子は嫌味一つ言わず、「分かりました。気を付けて帰ってきてね」と優しい返事を送ってきた。千聖の良心が痛む。