隣で、知春がくすくすと笑う。彼女の声は千聖と雷蔵にしか聞こえていないので、知春は近くの席に他の乗客がいないことを確認してから、二人に話しかけた。
「店長さんと羽根田さんは、とっても相性が良さそうですね」
「えっ? そう、見えますか?」
「はい。お二人とも、優しい人柄が滲み出ていて……。信一さんも、お二人の言葉なら信頼してくれると思います」
千聖は単純に嬉しかった。知春とは出会ってまだほんの少しだ。そんな短時間でも、こうして信頼関係を築けることもある。彼女のためにも、全力を尽くしたいと思わせた。今度は千聖から彼女に話しかけることにした。
「尾形さん。久しぶりの現実世界って、どうですか? 変な感じしますか?」
「……そうですね。本当の意味で、地に足が着いていないってこういうことなんだって思います。現地に着いたら、十年前とは変わっていて、もっとびっくりするかもしれません」
「なるほど」
「信一さん、元気でいてくれたらいいなあ」
その言葉に、千聖と雷蔵は目を見合わせた。彼女の願いを叶えるには、境信一が健在であること、それが大前提だ。過去に、離れ離れになった友人や家族を探すテレビ番組の企画があったが、相手を見つけてみたら病気療養中だったり、既に亡くなっていたりする場合もあった。
(きっと……きっと大丈夫)
こればかりは、祈るしかない。千聖は知春の手を取り、彼女の膝の上でそっと握った。彼女が本当にそこに存在するかのように、その手は細くて温かかった。
*****
新幹線と地下鉄、バスを乗り継いで、H県K市に着いたのが午後二時。昼食に新幹線内で弁当を買って食べたので、歩いての情報収集に向けて、体力は万全の状態だ。知春は空腹にならないらしいのだが、千聖と雷蔵の食べるところを羨ましそうに見ていたので、千聖は若干の罪悪感を覚えた。
まず、知春と信一が務めていたというIT系企業会社が入っているビルにやってきた。しかし、本日は土曜日。週休二日制を取り入れているその会社は、本日が休業日になっているということで、受付で入場を断られてしまった。やはり、最初からそう易々とうまくいくものではない。
ただ一つ、釣果があった。受付の女性に調べてもらったところ、境信一はまだここに務めている。それも、昇進して課長となっているらしい。
「よかった……。信一さん、頑張っているんですね。それにこの雰囲気、懐かしいです。この辺り一帯は全然変わってない。次は、信一さんが住んでいたアパートに行ってみましょうか」
知春が建物内外を見回しながら、郷愁たっぷりに呟いた。そこに焦りは見られない。境信一が必ず見つかると、賭けているのだろう。一行は会社を後にして、道案内をしてくれる知春についていくことにした。
「店長さんと羽根田さんは、とっても相性が良さそうですね」
「えっ? そう、見えますか?」
「はい。お二人とも、優しい人柄が滲み出ていて……。信一さんも、お二人の言葉なら信頼してくれると思います」
千聖は単純に嬉しかった。知春とは出会ってまだほんの少しだ。そんな短時間でも、こうして信頼関係を築けることもある。彼女のためにも、全力を尽くしたいと思わせた。今度は千聖から彼女に話しかけることにした。
「尾形さん。久しぶりの現実世界って、どうですか? 変な感じしますか?」
「……そうですね。本当の意味で、地に足が着いていないってこういうことなんだって思います。現地に着いたら、十年前とは変わっていて、もっとびっくりするかもしれません」
「なるほど」
「信一さん、元気でいてくれたらいいなあ」
その言葉に、千聖と雷蔵は目を見合わせた。彼女の願いを叶えるには、境信一が健在であること、それが大前提だ。過去に、離れ離れになった友人や家族を探すテレビ番組の企画があったが、相手を見つけてみたら病気療養中だったり、既に亡くなっていたりする場合もあった。
(きっと……きっと大丈夫)
こればかりは、祈るしかない。千聖は知春の手を取り、彼女の膝の上でそっと握った。彼女が本当にそこに存在するかのように、その手は細くて温かかった。
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新幹線と地下鉄、バスを乗り継いで、H県K市に着いたのが午後二時。昼食に新幹線内で弁当を買って食べたので、歩いての情報収集に向けて、体力は万全の状態だ。知春は空腹にならないらしいのだが、千聖と雷蔵の食べるところを羨ましそうに見ていたので、千聖は若干の罪悪感を覚えた。
まず、知春と信一が務めていたというIT系企業会社が入っているビルにやってきた。しかし、本日は土曜日。週休二日制を取り入れているその会社は、本日が休業日になっているということで、受付で入場を断られてしまった。やはり、最初からそう易々とうまくいくものではない。
ただ一つ、釣果があった。受付の女性に調べてもらったところ、境信一はまだここに務めている。それも、昇進して課長となっているらしい。
「よかった……。信一さん、頑張っているんですね。それにこの雰囲気、懐かしいです。この辺り一帯は全然変わってない。次は、信一さんが住んでいたアパートに行ってみましょうか」
知春が建物内外を見回しながら、郷愁たっぷりに呟いた。そこに焦りは見られない。境信一が必ず見つかると、賭けているのだろう。一行は会社を後にして、道案内をしてくれる知春についていくことにした。
