陳列された商品を見ながら、知春がポケットから小銭を取り出した。やはり、男性向けのタイピンやハンカチは気になるようだが、持ち合わせの金額では足りず、次々と手に取っては諦めて棚に戻している。

「境さんのご趣味とか、お好きなものはありますか?」

 迷っている知春に、雷蔵が話しかけた。商品のことを知り尽くしている雷蔵だからこそ、提案できることもあるのだろう。知春は記憶を手繰り寄せるように視線を宙に浮かべた。

「時間があれば本を読んでいる、読書が好きな人でした。多分、それは変わっていないと思います」
「なるほど。でしたら、こちらなんかはどうですか?」
「押し花の栞? あら、綺麗……」

 雷蔵が手渡したのは、ラミネート加工された栞がいくつか入った籠だ。その中から知春が選んだのは、水色の小さな花が散りばめられているものだった。少々デザインが可愛らしすぎる気もするが、本好きの信一なら、喜んで使ってくれるだろう。価格も五百円と、良心的だ。

「これにします。高価な物でなくて、信一さんに申し訳ないけれど」
「大事なのは、金額じゃないと思います。境さんなら、分かってくださるんじゃないでしょうか?」
「え?」
「あ、生意気なことを言いました。すみません……」

 つい、思っていることが口をついて出た。千聖の突然の言葉に、知春は目を丸くしたが、すぐに「そうですね」と言って、笑窪(えくぼ)を作ってくれた。

(本当に綺麗な人……外見だけじゃなくて、心も)

 なぜ、こんなにも思いやりのある誠実な女性が、なぜ亡くならなければならなかったのか。その理由は、千聖も知ってみたいと思った。

「では、ラッピングしましょうか。どうぞ、こちらへ。羽根田さん、手伝ってもらえる?」
「はい!」

 雷蔵と知春はレジカウンター内に入り、雷蔵はレジを操作し、知春は半透明の袋を選んで丁寧に栞を包んだ。押し花と同じ水色のリボンを付けて手渡すと、知春がそれを嬉しそうにそっと胸に抱く。

「ありがとうございます。これでやっと、私は前に進める気がします」
「こちらこそ、お買い上げありがとうございます。出発しましょうか」

 雷蔵が入り口の扉から外に出て、プレートを『CLOSED』に変えた。その瞬間、マーブル状だった景色がみるみるうちに形を取り戻していく。現実世界に戻ってきたのだ。

(でも、尾形さんはそのままだ……!)

 店内にいる知春は、その姿がはっきりと見えている。雷蔵曰く、周囲から彼女の姿は見ることができないとのことなので、千聖は彼女から再度プレゼントの袋を預かった。袋だけが空中を浮いていると、それこそ街の人々に混乱をもたらしかねない。