「それでは、話を先に進めさせていただいて、よろしいですか?」
「はい」
それから、雷蔵は知春から、生前住んでいた地域や会社について聞き出した。その遠さに、千聖はぎょっとする。
「H県K市なら、ここから新幹線を使って、片道三時間以上ってところかな」
「それって、十時間のうち、六時間は最低でも移動で使うってことですよね?」
十年経っていれば、境信一は転職したり、引っ越したりしている可能性もある。短時間で、見つけられるのだろうか。心配する千聖をよそに、雷蔵は首を横に振った。
「いいや。境さんにお会いして、尾形さんの望みを叶えるまでを十時間以内に済ませれば問題ないよ」
「でも、そんなに簡単に達成できますか?」
「そこは僕たちの腕の見せ所かな。あまりにも遅くなりそうだったら、羽根田さんは先にこっちに帰すから」
知春に不信感を与えないようにするためか、雷蔵は自信たっぷりにそう言った。はったりだとしても、今までの経験や実績があるからこそ、そう言えるのだろう。千聖も彼を信じて頷くしかない。
「尾形さん、最後に確認します」
「はい」
「あなたが仰っていた通り、境さんにお会いできたとしても、彼は既に新たな相手と結ばれている可能性があります。死因も、受け入れがたいものかもしれません。その覚悟はできていますか?」
「……はい、大丈夫です。死因がどうであれ、私ではもう、彼を幸せにすることはできないので。むしろ、過去に縛られずにいてくれたら、とすら思います」
「そうでしたか。承知しました」
知春はしんみりと微笑んだ。口ではそう言っても、心は実際、自分を忘れないでいてほしいだろう。千聖はまだそういう恋をしたことはないが、きっとそう思う。
「でしたら、商品を一点選んでいただいて、出発しましょう」
「……えっ。今日、今すぐですか!?」
「うん、そうだよ?」
雷蔵の言葉に驚いたのは、千聖だけだった。雷蔵と知春は既にそのつもりのようだ。千聖が話をきちんと聞いていなかったのだろうか。
「尾形さんが一度この店を出てしまったら、次はいつやって来られるか分からない。なにしろ、狭間世界だからね。店の場所が不確定なんだ」
「そ、そうなんですね……」
狭間世界とは理解が厄介なもののようだ。千聖が難しい顔をして頷くと、雷蔵は立ち上がり、店内へと知春を誘った。千聖もそれについていく。
「素敵なものが多いんですね。どれだったら買えるかしら。信一さんへのプレゼントにしてもいいんですよね?」
「はい。もちろんです」
「はい」
それから、雷蔵は知春から、生前住んでいた地域や会社について聞き出した。その遠さに、千聖はぎょっとする。
「H県K市なら、ここから新幹線を使って、片道三時間以上ってところかな」
「それって、十時間のうち、六時間は最低でも移動で使うってことですよね?」
十年経っていれば、境信一は転職したり、引っ越したりしている可能性もある。短時間で、見つけられるのだろうか。心配する千聖をよそに、雷蔵は首を横に振った。
「いいや。境さんにお会いして、尾形さんの望みを叶えるまでを十時間以内に済ませれば問題ないよ」
「でも、そんなに簡単に達成できますか?」
「そこは僕たちの腕の見せ所かな。あまりにも遅くなりそうだったら、羽根田さんは先にこっちに帰すから」
知春に不信感を与えないようにするためか、雷蔵は自信たっぷりにそう言った。はったりだとしても、今までの経験や実績があるからこそ、そう言えるのだろう。千聖も彼を信じて頷くしかない。
「尾形さん、最後に確認します」
「はい」
「あなたが仰っていた通り、境さんにお会いできたとしても、彼は既に新たな相手と結ばれている可能性があります。死因も、受け入れがたいものかもしれません。その覚悟はできていますか?」
「……はい、大丈夫です。死因がどうであれ、私ではもう、彼を幸せにすることはできないので。むしろ、過去に縛られずにいてくれたら、とすら思います」
「そうでしたか。承知しました」
知春はしんみりと微笑んだ。口ではそう言っても、心は実際、自分を忘れないでいてほしいだろう。千聖はまだそういう恋をしたことはないが、きっとそう思う。
「でしたら、商品を一点選んでいただいて、出発しましょう」
「……えっ。今日、今すぐですか!?」
「うん、そうだよ?」
雷蔵の言葉に驚いたのは、千聖だけだった。雷蔵と知春は既にそのつもりのようだ。千聖が話をきちんと聞いていなかったのだろうか。
「尾形さんが一度この店を出てしまったら、次はいつやって来られるか分からない。なにしろ、狭間世界だからね。店の場所が不確定なんだ」
「そ、そうなんですね……」
狭間世界とは理解が厄介なもののようだ。千聖が難しい顔をして頷くと、雷蔵は立ち上がり、店内へと知春を誘った。千聖もそれについていく。
「素敵なものが多いんですね。どれだったら買えるかしら。信一さんへのプレゼントにしてもいいんですよね?」
「はい。もちろんです」