「では、どのようにして尾形さんの願いを叶えるかについてお話ししたいのですが、続けて大丈夫ですか?」
「……はい。お願いします」
「まず、我々と一緒に、現世に行っていただきます。そこで、尾形さんに情報をもらいながら、元恋人の境信一さんを探します。あなたの死因については、恐らく彼が知っているでしょう」
「……あ、会えるんですか!? 信一さんに!? それなら、私の家族にも会いに行けますか!?」

 喜びと興奮のあまり、知春は椅子から立ち上がった。それくらいの反応は雷蔵も予想していたらしく、彼女を落ち着かせるように左右の手のひらを前に出している。

「ただし、我々以外の現世の人たちからは、あなたを見ることができません。我々があなたの代弁者となって、境さんに想いを伝えます。それと、あなたを現世に連れて行けるのは、十時間だけです。ご家族まで探すのは、無理があると思われます」
「あ……そ、そうですよね。失礼しました……」
「……いえ。これが私の力の限界です。ご期待に添えず、申し訳ございません」

 このような店を出せる雷蔵でも、そこは万能ではない、ということだった。しかし、千聖にとって、それは雷蔵なりの一線のように思えた。彼らの希望を何でもかんでも聞いていたら、現世に戻れるのをいいことに、やりたい放題してしまう亡魂が出てくる。だから、規定を設けているのかもしれない。

 いずれ詳しく聞いてみようと考えつつ、千聖は知春に椅子に戻るように促した。彼女はさらさらの黒髪を耳に掛け、深く息を吐き出す。興奮した気を静めようとしているようだ。

「境さんではなく、ご家族の方に会いに行くという選択肢もありますが、どうしますか?」
「……いえ。やはり一番会いたいのは、信一さんです。家族は、私のことをよく理解してくれていましたから。今更感謝を伝えなくても、分かってくれているはずです」

 雷蔵の問いに、知春ははっきりと言い切った。家族との信頼関係が築けていた証拠だ。羨ましくもある一方で、彼女が家族よりも元恋人を選んだことに、千聖は切ない気持ちになった。

(お父さんは、私たちより自分のプライドが大事だったんだよね)

 もしかしたら、悟も「麻唯子と千聖なら分かってくれる」なんて思っていたのだろうか。そうであったなら、千聖は心の底から悟を軽蔑する。今は確かめようもないが、悟が現世に未練を残していなければ、ここに現れることはないだろう。

 仮に、悟がここに来たとして。千聖は平常心でいられるだろうか。彼がどんな弁解をしようとも、許せない気がしていた。