「マエダ、あんたはなんでアイスをおごる約束なんかしたのよ?」

 僕は自己紹介の時の出来事を説明した。

 吉崎さんはあきれた表情で聞いていた。

「死神って、あんた馬鹿じゃないの。そんなこと言ってるあんたは疫病神じゃん」

 うわあ、上手いこと言ったよ。

 オウッ!

 膝の裏蹴らないで。

「死神って、そもそもそんなのこの世にいるわけないじゃん」

 いや、それくらい僕だって分かってるけどさ。

「あれ、でも、あの世だったらいるのかな? ていうか、この世とあの世をつなぐのが死神? ねえ、どう思う?」

 僕を越えて話を振られた西上さんも戸惑っている。

「さあ、どうでしょうね」

 犬の散歩をしている老夫婦が向こうからやってきた。

 歩道の真ん中で立ち止まると、舞い散る桜を見上げながら話をしはじめた。

 僕と西上さんが二人で、吉崎さんが一人で分かれてやりすごす。

 合流するとき、吉崎さんににらまれた。

「なんでそっちなのよ」

 いやべつに、意味はないですけど。

 こんなに桜がきれいなのに、眺めている余裕なんかない。

「私、死神がいたっていいと思うんですよ」

 西上さんが突然そんなことを言い始めた。

「え、なんで?」

 吉崎さんが僕の肩越しに顔を突き出す。

 うん、僕も、なんで?

「だって、死神のおかげで自己紹介がうまくいったわけじゃないですか」

 ああ、まあ、そういう意味か。

「私、自己紹介の時っていつも緊張しちゃって声が裏返っちゃったりかすれたりするから、何回も練習してたんですよ」

 それを僕が聞き間違えたってわけか。

 西上さんが僕らに微笑みかける。

「第一印象でしくじると、ずっと引きずるでしょう」

 まさしく、それが僕ですけどね。

「あー、分かるわー。一度つけられたキャラって、変えられないよね。みんな一面しか見てくれないもんね。人間って、そんなに単純じゃないのにさ」

 吉崎さんがそんなことを気にしているとは意外だった。

「何よ、あたしがそんな繊細な一面を見せちゃ悪い?」

 何も言ってないっての。

「あんたの考えてることくらい分かるよ。こいつさ、すぐ顔に出るよね」

 西上さんまで笑っている。

「言葉より分かりやすいかも」

 そうなのかな。

 だから、さっきから考えていることが全部見透かされていたわけか。