「あの、その……」

 人間、パニックに陥ると本当に「あわあわ」と言ってしまうらしい。

 なんとか言葉を絞り出そうとしている僕に、西上さんが助け船を出してくれた。

「良かったら、一緒に行きませんか?」

 敵意を剥き出しにしていた吉崎さんも渋々同意した。

「まあ、どうせ帰り道だし時間もあるから、寄ってってもいいけど」

 もうどうでもいいです。

 とにかくこの修羅場をなんとかしたくて、僕も大げさに声を上げた。

「じゃあ、行こうよ。おごるからさ」

 もうヤケクソだ。

 三人並んで校門を出る。

 学校から駅までは徒歩十分程度だ。

 満開の桜並木に包まれた住宅街の道路を歩く。

 歩道は広いのに、僕は女子二人に挟まれて歩きにくい。

 ものすごくいい匂いに包まれる。

 ていうか、僕、汗くさくない?

 気にし始めると、本当に汗がにじみ出してくる。

 春の爽やかさなど地球の裏側へ行ってしまったかのようだ。

 この空気をどうにかしたい。

 西上さんが聞きたそうな顔をしていたので、僕から吉崎さんを紹介した。

「同じ中学だった吉崎さんです」

「西上愛海です。よろしく」

 お互いに僕をはさんだまま、品定めをするかのように会釈しあっている。

 決闘中の剣豪に挟まれた気分だ。

 どちらにしろ斬られるのは僕らしい。

 西上さんの方を向いていたら、反対側から吉崎さんに脇腹をつつかれた。

「あんたとは高校でも同じクラスになるかと思ってたのにね」

「何組なんですか?」

「あたし、C組」

 吉崎さんの制服の襟に一年C組のバッジがついている。

 僕らはB組だ。

 西上さんが僕の顔をのぞき込む。

「そうなんだ。残念だったね」

 僕の両側で会話が進むので首が疲れる。

 目も回りそうだ。

 両手に花って大変なんだな。

 一途な方が楽で良さそうだ。