前後のお客さん達が僕らに注目している。

 西上さんが黒髪のカーテンで顔を隠す。

 髪の間からはみ出た耳が真っ赤だ。

 さすがに僕の顔も熱くなる。

 少し調子に乗りすぎた。

 額に汗の浮いた僕の顔を、心配そうに西上さんがのぞき込む。

「どうしたの?」

 何が?

「顔が逆さまだよ」

 え、僕が?

 店内の鏡を見た。

 当惑顔の自分が映っている。

 逆さじゃない。

 ふつうだ。

 僕の隣で彼女が笑っている。

「冗談よ、冗談」

 なんだよ。

「さっきの仕返し」

 なんだ、そうか。

「びっくりしちゃったよ」

 黒髪をかき分けて彼女が微笑む。

「そんなことあるわけないでしょ。本気にしないでよ」

 僕は彼女をまっすぐ見つめた。

「本気だよ、僕は」

 彼女が頬を染めながらうつむいた。

 もう逆さまにはならない。

 風景もゆがんだりしない。

 でもそれは正しい位置にあるからではない。

 すべてが逆さまになったからだ。

 僕はもうただの非モテ男子じゃない。

 運命を変えてくれたカード。

 逆さまになったタロットの十三番。

 キミのおかげだよ。

 彼女が僕の耳元でささやいた。

「最初に言ったでしょ……」

 恋は不慣れだけど、お互い自己紹介だけはうまくなった。

「私、シニガミですから」