靴を履き替えて外に出たところで彼女が言った。

「今日はどこに連れていってくれるの?」

「レッツ・イート・アイスクリーム・トゥゲザー」

「好きだね」

 西上さんの言葉に重ね気味に僕は言った。

「キミがね」

 彼女の眉間に皺が寄る。

「それ、イケメンのセリフだよね」

「ハシビロコウには似合わないか」

「残念でした」

 僕の顔をのぞき込みながら背中をパシンとたたく。

「でも、言えるようになっただけ、マシだよね」

「何度も繰り返したからね」

「がんばったじゃない」

 朗らかな笑みを残して桜並木を駆けていく彼女を僕は追いかけた。

 死神の逆位置は再生。

 逆さになるたびに繰り返す。

 でも単なる繰り返しではない。

 生まれ変わるたびに新しい展開が待っている。

 アイス屋さんに入って、いつも通り注文の列に並ぶ。

 西上さんがショーケースの中のフレーバーを眺めている。

「この新作もおいしそうだけど、どうしようかな」

「へえ、新作があるんだ」

「オマエダ君は何にするの?」

「いつものやつ」

「好きだね」

 キミがね。

 まわりに人がいて、いくらなんでも言えない。

「さっきのセリフをここで言うのがイケメンでしょうよ」

 西上さんは不満げに僕の腕をつつく。

「だってイケメンじゃないし」

「そうだね。どっちにしろ似合わないし」

 ひどいな。

 事実だけど。

「魔法の呪文なら言えるんだけどな」

「何それ」

「トールモカフラペチーノエクストラショットヘーゼルナッツシロップオンホイップ」

「それ、アイス屋さんじゃないじゃない」

 西上さんが手で口元を隠しながら笑う。

「オマエダ君、ジョークのセンスないね」

「キミもね」

「あ、ひどい」

「お似合いだろ。お互い」