彼女が冷たい目で僕を見おろしていた。
「私、ニシガミですから」
え?
シニガミ……。
……ニ・シ・ガ・ミ?
ニシガミさん?
うわあ……。
やらかした。
終わりだ。
僕の高校生活はいきなり初日にピリオドを打たれてしまったのだ。
何という馬鹿な失敗だろう。
ポエムが正夢になってしまった。
まさにキミは僕の死神だったね。
終わりだよ、僕は。
彼女は淡々と自己紹介をやり直した。
「西上愛海です。愛する海でマナミです。死神ではありませんのでよろしくお願いします」
また爆笑に包まれる。
まるで芸人さんの持ちネタみたいにうまくまとまって彼女は好印象でみんなに歓迎されていた。
男子連中は、「死神どころか天使じゃん」なんて盛り上がっている。
先生がパンパンと手を叩いてみんなを落ち着かせて、残りの人たちの自己紹介が続いた。
僕はといえばあまりにも動揺してしまって、申し訳ないけど、話が全然頭に入ってこなかった。
悔やんでも悔やみきれない失敗だった。
無難に始まるはずの高校生活を自らぶちこわしたのだ。
言い訳や謝罪を考えようとすればするほど頭が真っ白になっていく。
その後の入学式も何があったかまったく覚えていない。
再び教室に戻ってきてから、今後の日程の説明などがあって、初日はそれで解散だった。
ああ、もう、明日からどうしたらいいんだろうか。
せっかく入った高校ですが、退学してもよろしいでしょうか。
おもわず父上、母上の面影がまぶたに浮かんでしまった。
馬鹿な息子でごめんなさい。
今までお世話になりました。
市場に売られそうな哀しい曲のリフレイン。
はやくこの場から逃げ出したくて、僕はすぐに席を立とうとした。
と、その時だ。
また、左隣の席からつぶやきが聞こえてきたのだ。
「ああ、傷ついたなあ」
え?
腰を浮かせながら振り向くと、西上さんが僕を見上げて柔和な微笑みを向けていた。
もう一度同じセリフが繰り返される。
「ああ、傷ついたなあ」
笑顔だけど、声は怒っている。
いや、本当に申し訳ありません。
あまりにもびびってしまって、声には出せなかった。
逃げるわけにもいかず、僕は軽く頭を下げた。
彼女はわざとらしく口を曲げながら今度は良く通る声で言った。
「この傷はアイスでもおごってもらわないと癒えないだろうなあ」
ものすごい棒読みだ。
「あ、いや、さっきは聞き間違えて、本当にすみませんでした」
なんとか声に出してちゃんと謝罪することができた。
でも、彼女は聞いているのかいないのか、立ち上がって僕と向かい合った。
女子のわりに背が高い。
標準体型男子の僕とあんまり変わらない。
すらりと腕が長くて華奢な体つきだ。
じっと見つめられて、僕は視線を合わせることができなかった。
うつむいた視界に入った彼女の指先の爪は桜色で、きれいに整えられていた。
華やかで、とても死神とは思えない。
当たり前だ。
そもそも西上さんなのだから。
「私、ニシガミですから」
え?
シニガミ……。
……ニ・シ・ガ・ミ?
ニシガミさん?
うわあ……。
やらかした。
終わりだ。
僕の高校生活はいきなり初日にピリオドを打たれてしまったのだ。
何という馬鹿な失敗だろう。
ポエムが正夢になってしまった。
まさにキミは僕の死神だったね。
終わりだよ、僕は。
彼女は淡々と自己紹介をやり直した。
「西上愛海です。愛する海でマナミです。死神ではありませんのでよろしくお願いします」
また爆笑に包まれる。
まるで芸人さんの持ちネタみたいにうまくまとまって彼女は好印象でみんなに歓迎されていた。
男子連中は、「死神どころか天使じゃん」なんて盛り上がっている。
先生がパンパンと手を叩いてみんなを落ち着かせて、残りの人たちの自己紹介が続いた。
僕はといえばあまりにも動揺してしまって、申し訳ないけど、話が全然頭に入ってこなかった。
悔やんでも悔やみきれない失敗だった。
無難に始まるはずの高校生活を自らぶちこわしたのだ。
言い訳や謝罪を考えようとすればするほど頭が真っ白になっていく。
その後の入学式も何があったかまったく覚えていない。
再び教室に戻ってきてから、今後の日程の説明などがあって、初日はそれで解散だった。
ああ、もう、明日からどうしたらいいんだろうか。
せっかく入った高校ですが、退学してもよろしいでしょうか。
おもわず父上、母上の面影がまぶたに浮かんでしまった。
馬鹿な息子でごめんなさい。
今までお世話になりました。
市場に売られそうな哀しい曲のリフレイン。
はやくこの場から逃げ出したくて、僕はすぐに席を立とうとした。
と、その時だ。
また、左隣の席からつぶやきが聞こえてきたのだ。
「ああ、傷ついたなあ」
え?
腰を浮かせながら振り向くと、西上さんが僕を見上げて柔和な微笑みを向けていた。
もう一度同じセリフが繰り返される。
「ああ、傷ついたなあ」
笑顔だけど、声は怒っている。
いや、本当に申し訳ありません。
あまりにもびびってしまって、声には出せなかった。
逃げるわけにもいかず、僕は軽く頭を下げた。
彼女はわざとらしく口を曲げながら今度は良く通る声で言った。
「この傷はアイスでもおごってもらわないと癒えないだろうなあ」
ものすごい棒読みだ。
「あ、いや、さっきは聞き間違えて、本当にすみませんでした」
なんとか声に出してちゃんと謝罪することができた。
でも、彼女は聞いているのかいないのか、立ち上がって僕と向かい合った。
女子のわりに背が高い。
標準体型男子の僕とあんまり変わらない。
すらりと腕が長くて華奢な体つきだ。
じっと見つめられて、僕は視線を合わせることができなかった。
うつむいた視界に入った彼女の指先の爪は桜色で、きれいに整えられていた。
華やかで、とても死神とは思えない。
当たり前だ。
そもそも西上さんなのだから。