僕がにやけていると彼女が頬を膨らませた。

「あ、センス悪いって思ってるでしょ」

 なんで分かる?

「ああ、傷ついたなあ」

 ん?

 僕はこの続きを知っている。

「この傷はアイスでもおごってもらわないと癒えないだろうなあ」

 僕は彼女の目を見つめながら答えた。

「レッツ・イート・アイスクリーム・トゥゲザー」

 西上さんが手で口元を隠しながら笑い出す。

「なんで英語?」

 乱れた髪を両側にかき分けながら彼女が首をかしげた。

 紅潮した頬が桃のようだ。

 もう死神には見えない。

 鼓動が高鳴る。

 額に汗がにじみ出てくる。

 そんな僕の顔を彼女がのぞき込む。

「前田君、もしかして、照れてる?」

 そりゃあ、もう。

「こんなこと初めてだからさ。なんて言ったらいいか分からなかったからね」

「外国語みたいなものかあ」

 彼女は「そうかうんうん」と満足そうにうなずきながら言った。

「じゃあ、一緒に行って一緒に食べようよ」

「もちろん、おごりなんだろ」

「うん、前田君、キミのね」

 彼女と並んで歩きながら僕はそっと魔法の呪文を唱えた。

 イッショニイッテイッショニタベル。

 それが冥界への扉を開ける呪文だったとしても、僕は何度でも唱えるだろう。

 西上さんが耳に手をあてた。

「え、何か言った?」

「いやべつに」

 駅前のアイス屋さんはやっぱり大混雑だった。

 でもそこには先に着いているはずの吉崎さんはいなかった。

 上級生男子の姿も見えない。

 注文するのも作るのも時間がかかるから、もう食べ終わったということはないはずだ。

 別のお店に行ったんだろうか。

 そんなお店、この辺にはなかったような気がする。

 コンビニアイスのことだったんだろうか。

 いや、「スペシャルトッピングつきでね」と言っていたはずだ。

 コンビニのアイスじゃない。

 じゃあ、いったいどうしたんだろう。

 考えても分からなかった。