彼女が手を突き出して花びらを受け止めようとする。

「桜がきれいだね」

 うん、キミもね。

 言えるわけがない。

 百回生まれ変わっても無理だろう。

 彼女が両手をお皿のようにして花びらを待ち受けながらぽつりとつぶやいた。

「なら、百一回生まれ変わればいいんじゃないの」

 え、今、なんて言った?

「だから、百一回生まれ変わればいいじゃない」

 まあ、そう言われてもね。

「生まれ変わるなんて無理じゃん」

 死神じゃあるまいし、と言いそうになって言葉を飲み込んだ。

「なら、生まれ変わったつもりになればいいじゃない」

 つもり?

 それでいいんだろうか。

「それとも……」

 西上さんが僕を見つめる。

「契約する? 死神と」

 シニガミと……。

「冗談よ、冗談」

 僕は頬の筋肉を引き上げて無理矢理笑顔を作った。

「やだ、笑顔が般若みたいだよ」

 そう言われて、少し筋肉がほぐれた。

「言ったでしょう」

 彼女は一度咳払いしてから言った。

「私、ニシガミですから」

「あ、うん、シニガミじゃないよね」

「あ、ひどい、それ言う?」

「だって、自己紹介で自分で言ってたじゃん。よく言われるって」

「あれはジョークでしょ。本当に言う人はいないよ」

 黒髪のカーテンを両側に分けて丸みを帯びた頬を出して笑顔を見せる今この瞬間の彼女は確かに死神には見えない。

 でもまあ、自分で言っちゃうってところが、やっぱり『オマエダ君』なみにセンスが悪い。