それから入学式になって体育館に移動した。

 ステージに向かって右からA組、僕らのB組という順番でパイプ椅子が用意されていた。

 左隣のC組の列に、吉崎さんがいた。

 少し前の方で後ろ姿だけど、茶色い髪が目立つからすぐに分かった。

 中学の時は髪型は同じでも、色は黒かった。

 制服のスカートも他の女子に比べてかなり大胆な短さだ。

 膝が気になったけど、後ろからでは見えない。

 何度か振り向いて後ろの女子としゃべったりしていたけど、僕の視線には気づいていないようだった。

 まわりの男子連中が彼女の噂をしている。

「C組のあいつ、けっこういいじゃん」

「派手じゃね」

「センスはいいだろ」

「俺はパスだな」

「されるほうだろ」

「うっせーよ」

 もちろん僕はその噂話の輪には入れてもらえない。

 ハシビロコウのようにじっとしているだけだった。

 入学式が終わってからは、連絡事項の説明があっただけで、初日は解散だった。

 僕は隣の席の西上さんの方をチラリと見たけど、もちろん彼女から話しかけられることはなかった。

 彼女はうつむいたままプリントを鞄にしまって、スマホをチェックしている。

 思えばいい夢だった。

 できることなら、もう一度アイスをおごらせてほしい。

 現実の世界でそんなことを言ったら、本当に僕の高校生活は終わってしまうだろう。

『ねえ、キミ、よかったら一緒にアイス食べに行こうよ』

『はあ? キモイんですけど』

 いやあ、マジでないわ。

 よけいなことはしない。

 空気が一番。

 無でいいのだ。

 僕はさっさと教室を出て帰ることにした。

 靴を履き替えたところで玄関口に知っている顔を見つけた。

 吉崎さんだ。

 心臓が二倍速で脈打つ。

 スマホを見ながら誰かを待っている。

 夢と同じ光景だ。

 一歩を踏み出す。

 玄関口を出て彼女の前を通り過ぎる。

 彼女がスマホからチラリと顔を上げる。

「おそい!」

 え?

「待ってた」

 え?