あれ?

 ……教室だ。

 まわりのみんなは笑いをこらえながら僕を見上げている。

 腕組みをした岡島先生が僕をにらみつけていた。

「おまえ、ええと……、マエダか。入学早々寝ぼけて叫ぶとは何事だ! これから仲間になる連中の自己紹介くらいちゃんと聞いてないと失礼だろうが!」

 自己紹介?

 あれ、さっき、……ということは。

 まさかの夢オチ?

 なんということだ。

 僕は自己紹介の途中で居眠りをしてしまっていたらしい。

 最悪だ。

 これでもうクラスのみんなは僕のことをイタイ奴に認定しただろう。

 終わりだ。

 始まる前から僕の高校生活は終わってしまったのだ。

「おい前田。せっかくだから、立ち上がったついでに自己紹介しろ。する前から一発でみんなに覚えてもらえただろうけどな」

 先生の皮肉にみんなが爆笑する。

「前田圭介です。高森北中出身です。中学の時は生物部でした。よろしくお願いします」

「派手に叫んだわりには、地味な自己紹介だな」

 先生の嫌味な一言にまたみんなが反応する。

 もういまさら何を言われたところでどうでもいい。

 僕はただ黙って耐えていた。

「よし、いい。座れ。今度は寝るんじゃないぞ」

「はい。すみませんでした」

 僕は座ろうとして椅子を確かめた。

 そのとき、隣の席の女子と目が合った。

 黒髪のカーテンの間から僕を見上げていた目は二重で黒目が大きい。

 彼女は無表情のまま軽く会釈して、黒髪のカーテンを閉じてしまった。

 鼓動が高鳴る。

 僕は彼女の名前を知っている。

 何人かの自己紹介の後に、彼女の順番が来た。

「西上愛海です。よくシニガミと言われます。ニシガミです。よろしくお願いします」

 自分で言っちゃうんだ。

 まわりの生徒達もどう受け止めていいのか分からないようでざわついている。

 今度は僕もさすがに叫ばなかった。