お店を出たところで吉崎さんが西上さんに尋ねた。

「あたしたちはここから歩きだけど、愛海ちゃんは?」

「あ、私は電車」

「そう、じゃあ、また明日」

「うん、オマエダ君もね」

「あ、あぁ」

 吉崎さんに脇腹をつつかれる。

「あんたさ、挨拶ぐらいちゃんとしなさいよ」

 オカンか。

 でも、もう西上さんは背中を向けて駅の階段を上っていくところだった。

 僕らはロータリーを出てまた住宅街の道を歩いた。

 駅の近くに高森北中があって、僕らの家はそれぞれ歩いて五分くらいのところだ。

 今の高校を選んだ理由も、それほどレベルが高くなくて、家から近いからだった。

 楽してコマを進められるなら、人生双六で無理することはない。

 人よりリードしているかなんて気にすることはないし、ゴールできるなら何番でもいい。

 そんな僕にぴったりの高校だったのだ。

 並んで歩く吉崎さんがぽつりとつぶやいた。

「あの子、膝めっちゃきれいだったじゃん」

 西上さんのことらしい。

 へえ、そうなのか。

 女子が見てる女子のポイントって、そういうところなんだな。

「見てないから分からないや」

「明日見てみなよ。つるっつるだから」

「でも、ガン見したら失礼だよね」

「ヘンタイだね」

「じゃあ、だめじゃんか」

「あたしの膝見せてあげようか。ていうか、今見えるじゃん。ガサガサでしょ」

 そう言われて視線を下に向けても、歩いているから、よく分からない。

「動いているからなんだかよく分からないよ」

 吉崎さんが笑う。

「あんた、私のだと遠慮なく見るんだね」

 そう言われてみればそうだ。

 女子の膝を見せろなんて、本当にヘンタイみたいだ。

「ほら、どうよ」

 立ち止まった吉崎さんが右膝を上げて僕に見せつける。

 そんなにガサガサでもない。

「けっこうきれいなんじゃないの」

「形がイマイチなのよ。あの子の膝はもっときれいだって」

 そう強調されても、見てないものは分からない。

 歩こうとしたけど、吉崎さんが立ち止まったままだ。

「ねえ、あのさ……」

 吉崎さんが言い淀むなんてめずらしい。

「なんだよ」

「あんたさ、中一の校外学習でハシビロコウ見たの覚えてる?」

 中学一年生の校外学習?

 ずいぶん前のことだ。

 動物園に行ったことはなんとなく覚えている。

 ああそうか、だから僕はハシビロコウが灰色の動かない鳥だって知ってたのか。

 そういえば、あの時、僕は吉崎さんと同じ班だった。

「あたし、あんたにそっくりだって言ったのに、全然興味示さなくてさ」

 全然覚えていない。