まさかアイス屋さんに断崖絶壁が現れて追いつめられるとは思わなかった。

 さてここで僕はいったい何を白状すればいいんでしょうか?

 つい出来心で?

 むしゃくしゃしてたのでやってしまいました、とか?

「どうせあんなたなんか、悪いことすらできないでしょ。そんな度胸ないくせに」

 本当に吉崎さんは僕のことをよく分かっていらっしゃる。

 イヤミを吐き出したせいか、吉崎さんに笑顔が戻ってきた。

 機嫌が直ってくれてなによりだ。

 ただ、心はあたたまるけど、アイスのせいで体が冷えてきた。

 全部食べたら風邪をひきそうな分量だ。

 僕の手が止まったのを見て、西上さんが助け船を出してくれた。

「少し食べてあげようか?」

 女子は冷え性だなんていうけど、アイスでは冷えない生き物らしい。

「好きなだけどうぞ」

 西上さんに差し出すと、横でまた吉崎さんがすねはじめた。

 自分のをわざとらしく大きく口に入れて顔をしかめる。

「吉崎さんも食べていいよ」

 僕が言うと、ますますへそを曲げてしまう。

「いらない」

 アイスよりも冷たい言葉に、急に心も冷えてくる。

 これなら冥界の方が暖かいんじゃないだろうか。

 今頃ハデスはビーチで日焼けしながらペルセポネと一緒にアイスを食べているに違いない。

 修羅場なんて、どうやって解決したらいいのか分からない。

 僕はただ黙り込むしかなかった。

 アイスを口に入れている間はしゃべらなくてもすむ。

 幸いなことに、西上さんは素直に僕のアイスを喜んでくれていた。

 最後に残った部分はなんとか自分で消化できた。

 結局、三人ともなんだかんだと完食だった。

 吉崎さんがパンパンと手をはたいた。

「ま、おごりだから許してやるか。おいしかったし」

 上から目線の女王様だな。

 まあでも、ご満足いただけて良かったです。

 こうして僕の初めてのデートはなんとか無事に終わった。

 二度とないことなんだろう。

 もちろん、今回だってデートなんて呼べるものではないことは分かっている。

 そもそも三人だったし。

 でも、楽しかった。

 財布が死んだこと以外は。

 逆さに振っても小銭すら出てこない。

 明日からどうやって生活していこう。