それからしばらくみんなおとなしく自分のアイスに集中していた。

 僕はまず邪魔な綿あめを制覇した。

 それから一番上のアイスに突き刺さっていたチョコを一本ずつ食べる。

 ……減らない。

 綿あめだけでもう満足だ。

 ほとんど解体工事だろ、これ。

 西上さんがピスタチオ火山に突き刺さったチーズケーキを引き抜いている。

 どうやら、チーズケーキ自体凍ってアイスになっているらしい。

「オマエダ君は中学の時、生物部だったんでしょ」

 西上さんの質問を聞いて、「なんで知ってんのよ」と吉崎さんが僕をにらみつけた。

 自己紹介の時に言ったと説明しておいたら、僕の代わりに全部しゃべってくれた。

「生物部って言ったって、他の部活に入らない連中が無理矢理所属させられてたんだよね。放課後生物室に集まって、金魚と亀に餌やって解散っていう部活だよね」

 それ以外にもいちおう月に一回は水槽の掃除をしていた。

 でもまあ、確かにそれだけだ。

 西上さんが首をかしげる。

「それって帰宅部なんじゃないの?」

「うちの中学は全員部活に所属するっていう建前だったから、いちおう立派な部活動扱いなんだよね」

 まったくその通りです。

 何かを積極的にやろうなんて思ったことがない。

 みんなの力を一つに合わせて何かを成し遂げる。

 それが素敵なことだというのは分かっている。

 でも、そこに僕はいなくてもいい。

 面倒なことに関わりたくはない。

 そういう場の中心にいた吉崎さんにしてみれば、僕なんて、この世にいてもいなくてもどちらでもいい存在だったんじゃないだろうか。

「あんたさ、あたしがお祭りですくった金魚ね、生物室の水槽に入れたの気がついてた?」

「どういう話?」

「なんだ、やっぱり気づいてなかったか」

 吉崎さんが笑い出す。

「町内会のお祭りでさ、金魚もらったのはいいんだけど、うちじゃあ飼う道具ないし、どうしようってなって、夜中に学校に忍び込んでさ、生物部の水槽に入れちゃったのよ」

「学校に忍び込めるんですか?」

 西上さんが驚く。

「それがさ、うちの学校古いから、あちこち鍵がぶっ壊れててね。宿題のノート持って帰るの忘れた時とか、みんな勝手に忍び込んでたよね」

 いや、僕はそんなことしてませんでしたけど。

「まあ、ちゃんと宿題やったんだから、あたしって偉いでしょ」

 偉くないよ。

「金魚が増えてたって全然気づいてなかったんでしょ」

「うんまあ、何がいるかなんて誰も気にしてなかったからね。いつだったか、水槽を掃除したらドジョウもいたし」

「尾びれがひらひらした形で錦鯉みたいな模様のやつだから目立ってたのにさ」

「そんなのいたっけ?」

「飼ってる金魚すら見てないんだからさ。変な部活でしょ」

 吉崎さんの嘆きに西上さんも同調して苦笑している。

 いやいや、勝手に入れられてたら、気づかないって。