さっそく上の綿あめから食べようとしたら、吉崎さんに怒られた。

「あんたさ、まず、写真撮らなきゃ」

 吉崎さんは品物を持ったまま、片手で器用にスマホを取り出してもう何枚もパシャパシャ写している。

 西上さんはカップだから、テーブルの上に置いて、いろんな角度からアイスの火山を撮影している。

 仕方なく僕もスマホを取り出そうとしたら、あやうく二段目のアイスから崩れそうになって、スプーンでおさえなければならなかった。

 両手がふさがって、写真どころではない。

「ほら、あんた、笑いな」

 吉崎さんが写真を撮ってくれた。

 スマホの画面を見せてくれたけど、困惑顔の自分に困惑してしまう。

 誰だ、おまえは?

 オマエダか?

「何にやけてんの?」

 いえ、なんでもないです。

「いただきまーす」

 西上さんがようやくアイスを食べ始めた。

 まずはピスタチオの火山を一口すくって口に入れる。

「んー、おいしーい」

 僕の心にはその一瞬が焼きつけられた。

 女子とデートなんて、最初で最後だ。

 こんな素敵な笑顔を目の前で見せてもらえることなんて、もう二度とないんだ。

 たとえ彼女が死神でも僕はかまわない。

 僕の魂を奪い去ってくれ。

 この一瞬を永遠にしてくれるのなら、むしろその方がいいくらいだ。

「マエダ、あんたの味見させて」

 吉崎さんの一言で現実に引き戻される。

「自分のあるじゃん」

「はあ、これだからだめなのよ。女子はね、他人のが気になるのよ。覚えときな」

 なぜか三段目のレインボーにスプーンを突き刺してすくおうとする。

 だから、崩れるって。

「上からにしてよ」

「ただの綿あめじゃん」

 と、文句を言いながらつまみとって口に入れる。

「つまんないの。アイス屋さんなのに冷たくないじゃん」

 じゃあ、このおしゃれアイスの存在意義はなんなんだよ。

「じゃあ、私も」

 西上さんも僕の綿あめをつまんだ。

「オマエダ君も私の食べていいよ」

 ピスタチオ火山を僕の方に押し出してくれる。

 でも、よく考えたら、同じ綿あめだよね。

 七色に染められているけど、味は同じだ。

「いいよ、自分の食べるから」

 断ると、吉崎さんがあきれ顔で口を挟んだ。

「あのね、女子はシェアしたいのよ」

 横の西上さんに顔を寄せてささやく。

「ごめんね、こいつ、女子慣れしてなくてさ」

 西上さんは苦笑しながら軽くうなずいて自分のアイスを一口すくった。