そんな話をしているうちに、白い冷気に満ちたガラスケースの中に僕たちが注文したアイスが少しずつできあがってきた。

 アイスをコーンの上においたり、チョコチップをまぶしたり、ベリーソースをかけたものを冷たい気体で瞬間的に凍結させたり、店員さんの手際がいい。

 まるでプラモデルを組み立てているみたいだ。

 ケースをのぞき込みながら吉崎さんが僕をからかった。

「あんたが女子とおしゃれアイスを食べるなんて、二度とないだろうね。コンビニアイスだって食べたことないのにね」

 まったくだよ。

「冥土の土産かもね」

 いや、まだ若いんですけど。

「冥土といえば、ペルセポネの神話って知ってますか」

 冥土って、なんでそこに食いつくかなと思ったけど、西上さんが不思議な話をし始めた。

「ペルセポネはギリシア神話の女神で、元々は天界にいたんですけど、冥界の王ハデスに連れ去られてしまうんです」

「へえ、誘拐されちゃったんだ。逃げ出せなかったの」

 やっぱり僕よりも吉崎さんの方が興味がありそうだった。

 占いとか神話に興味があるなんて意外だ。

「天界のゼウスが交渉して解放されることになったんですけど、そのときにハデスが冥界のザクロをペルセポネにあたえるんです」

「ふうん、案外あっさり逃がしちゃうんだね」

「でも、そのザクロのうち、ペルセポネは半分を食べちゃうんですけど、冥界の食べ物を口にした者は天界には戻れないという掟があって、ハデスはそれを狙っていたんですよ」

「へえ、じゃあ、戻れなくなっちゃったんだ」

「でも、半分だけだったので、一年のうち、半分は天界、半分は冥界にいることになったんです。それが夏と冬の季節の始まりっていう神話なんですよ」

「神話ってうまくできてるよね。考えた人天才だわ」