翌朝朋君と一緒に登校していると、彼が不意にスマホのメッセージ画面を見せてきた。

『時田奏太、隣のクラスだった。こいつだろ?』

そこに表示されていたのは、男の子が本を読んでいる部分が拡大された画像だった。横顔で画質が悪かったけれど、それでも際立つ艷やかな黒髪と大きな目。

私がこの間出会った『時田奏太』と、同じ顔をしている。

「この人だ!」
「おばけじゃなくてよかったな」

朋君がニヤニヤした目で私を見てくるので、悔しくなって横目で睨む。

「そんなことだろうと思ったよ。おじさんもおばけじゃないと思うって言ってたし」
「は? またおじさんと会ったのかよ?」
「もはや親友だよ」
「毎日そそくさとひとりで帰ってるもんな、お前」

 朋君が唇をとがらせながらスマホを操作し、『そいつであってるっぽい。ありがとう』と送ると、すぐに既読がついて再びメッセージが送られてきた。

『なんなん? 時田がどうかした?』
『友達が1回だけ会ったことあるらしくて、それが実在する人物かどうか知りたかったらしい』
『なにそれひどw でもまー、たしかに時田、幽霊っぽいよ。無愛想で無口で存在感ゼロ』

「だってよ」
「へえ……」

おじさんが以前彼を分析した通りだった。早くこのことを教えてあげたい。まだ朝なのに、放課後が待ち遠しくなった。

「心春ー! おはよー!」

前方から、友達のなっちゃんが私に向かって手を振る。

「あっ、なっちゃんだ! じゃあまた」
「おう」

なっちゃんのほうへ駆け寄ると、彼女は困ったように首を傾げた。

「別に来なくてよかったのに」
「ひどっ! なっちゃんが呼んだんじゃん」
「あたしはただ心春に朝の挨拶しただけ。邪魔しちゃ悪いと思ったし」
「邪魔って? なんの?」
「はぁ〜?」

なっちゃんが大きなため息をつく。

「心春と朋秋君のこと! ……て、あれ? 付き合ってるんじゃないの?」
「ただの幼馴染だよ」

高校に入学してからこの説明をするのは何十回目だろう。

私と朋君の仲をこういうふうに勘違いする人が多く、そのたびに幼馴染だよと言っている。

心春をこはると読んだり、仲のよい男女を恋人だと当てはめたり、先入観ほど視野を狭めるものはない気がする。

見た目が不審者のおじさんが、本当はとてもいい人のように。

「えー、てっきり付き合ってるのかと……。朋秋君、心春と一緒にいるときは『邪魔するな!』って顔してるし」
「朋君は目つきが悪いだけだよ。あと目が悪いから常に目を細めてるのも原因かも」
「そっかあ」

なっちゃんは納得して、話題を変えた。わかってくれたようで安心する。朋君は本当にいい友達だから、ずっとこの関係でいたい。