それから私は、秘密の場所に行ってのんびり過ごすよりも、おじさんに会って話すことが一日の楽しみになった。

おじさんは平日ほぼ毎日いたので、仲良くなるのに時間はかからなかった。

どれだけ話しても足りないくらいに、話のネタは尽きなかった。学校のこととか、部活のこととか、家族のこととか。

とるにたらないことばかりだけど、おじさんはどんな話題でも楽しそうに相槌をうって、ときに茶化しながらも真剣に聞いてくれた。

「心春ちゃんは毎日楽しそうでいいなあ」
「……あ、私ばっかり話しちゃってごめんなさい。おじさんもなにか話してよ」
「うーん。この歳になると話題なんてないんだよなあ。趣味でもあれば違うんだろうけど」

おじさんは自分の話を一切しなかった。

私が彼について知っていることは、小説家だということと、スランプに悩んでいることくらい。

「スポーツはどうですか? 体を動かしたら頭がスッキリして、なにか思いつくかも」
「運動は苦手なんだよなあ……。おっ、もうこんな時間! 帰らなきゃ! 心春ちゃんもおばけに会う前に帰りな!」

おじさんがビュンと走って山の方へ消えた。逃げたな、と苦笑いをしつつも、もう時間も遅くなってきたので私も帰ることにする。

辺りは薄暗くなり始めていて、もう夏も終わるんだなあとため息がでる。いくらここが居心地よくても、時間は止まってくれないのだ。