「……ううう」

時田君がくれたハンカチを、顔に押し当てる。ずるずる鼻水が出てくるけれど、さすがにそれを拭う勇気はなくて、ポケットからティッシュを出してちーんとかむ。

しばらくこの場で泣いていたいけれど、もしかしたら時田君が来てしまうかもしれない。こんな私を見たら驚くだろうから、さっさと帰ろう。

歩きながらスマホを取り出して、お気に入りのおもしろGIFのサイトを巡る。あほな動画ばかりだ。あほな動画を観ていると、なにもかもがどうでもよくなってきて、愉快な気持ちになる。

「ふふふふふ」と笑いながらふらふら帰る。通行人に変な目で見られるが、泣き顔をみられるよりはましだった。今は変な動画を観ることでこころの均衡を保つしかなかった。

こころの中を悲しみが100%占めるのなら、それを薄めないといけない。

「おい」

ごちん、と肩に衝撃を食らう。見慣れた治安の悪い顔が、ずずいと私の顔を覗いた。

「お前こえーぞ。何ひとりで笑いながら帰ってんだよ」
「……朋君」
「とりあえずラーメン屋でも行こうぜ。激辛のとこな」
「はあ!?」

朋君はジャージを着ていた。そこら辺を走り込みしていたのだろう、ちょっと汗臭い。

遠慮なく私の腕をつかんで、近所で有名な激辛ラーメン店への道のりをずんずん歩いていく。

「なに、なんで!? 私お金ないし、それに……」
「うるせー。……お前辛いことがあるとすーぐ笑おうとするよな。どーせまたおもしろGIFとか見てんだろ」
「!」
「何年幼なじみやってると思ってんだ馬鹿。ほら、ラーメン行くぞ。金は俺に借金でもすればいい。絶対返せよ」
「はあ~~?」
「……汗かきまくってればもう涙も出ねえよ」
「……」

昨日振った朋君と、今日振られた私が、一緒に激辛ラーメン屋。それはなんだかとても間抜けで、

「青春だね、なんか」
「は?」

あの人の言葉をなぞりたくなった。