「なんであんなめんどくさいコに手を出したの?」

「しつこいコでさあ……。思い込みも激しいし、これは手出したらヤバいな、と思ったからずっと無視してたんだ。なのに何かとからんでくるからこっちも大概辟易してて。一回だけつきあったらあきらめるってんで、食事しただけ。断じて、手だって繋いでない。なのに、次の日からとたんに彼女面し始めて……大槻先生にまでつきあっているんだろ、って聞かれて、誤解を解くのにすげえ疲れた」

 もしや、今日話が長かったのは、大槻先生じゃなくて岡崎さんの方か。


「ちょいちょいつまみ食いなんかしてるから、そんなのにつけ込まれるのよ。これにこりたら、少しはおとなしくしてたら?」

「俺が一番愛している女が、つきあってくれなくてね。さみしくてつい、あちこち手を出す結果になるんだよ」

「そんな人、いたんだ」

「目の前に」

「じゃ、そろそろ時間だから」

 今度こそ本当に席を立つ。ちょうどいい時間だし。


「蓮から、なにも連絡ない?」

 背中から聞こえた声に、振り返る。岡崎さんは、テーブルに頬杖をついて私を見上げていた。

 どこか、つかみどころのない笑顔で。

「ないけど……なんで?」

「んにゃ。なんでもない」

 そのままひらひらと手を振る。私も軽く手を振り返して、カフェをあとにした。


  ☆


「では、再会を祝して。かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!!」」」

 それを合図に、めいめいが話し始めていっきににぎやかになった。

「結構、人数集まったわね」

 言った冴子は、ジョッキを傾けている。私は梅サワー。まだお酒って飲みなれなくて、ビールの美味しさがわからない。


 全員が二十歳を超えている同級会会場は、居酒屋だった。貸し切りの部屋の中は、エアコンは入っているはずなのに、大勢の熱気でむあんとした空気に包まれている。髪、アップにしてきて正解。うなじに髪の毛がはりついてると、それだけで不快感が30パーセントは増すわね。


「青石さん、いないわね」

 ふいに、冴子が言った。きょろきょろしてた私の視線に気が付いたらしい。

「別に……」

「成人式の時、社会人の彼氏と来てたでしょ? あれ、どうなったのかなあ」

「真奈美、今日はその彼とどっか海外行ってるらしいよ?」

 私たちの会話を聞いてたらしいえこちゃんが反対側から答えた。


「続いてたんだ」

「どうかな。どっちも、遊び、って感じだけど」

「えこちゃん、詳しいね」

「幹事の佐伯君に聞いたの。聞きもしないのに、詳細に語ってくれたらしいわよ?」

「そういうの、かえって信用できないよね」

「まあいいんじゃないの? 相変わらずで」

 くすくすと笑うえこちゃんは、半年前にあった時よりもなんとなく色っぽくなっているような気がする。えこちゃんにも、何かあったのかな。

 そういうのをみると、時は容赦なく流れているんだなって、実感する。

 私にも、きっと、あいつの周りにも。

「では、ビンゴ大会をはじめまーす」

 佐伯君が立ち上がると、みんながわっと盛り上がった。


  ☆


「梶原、飲んでる?」

 宴もたけなわでみんながあちこち散らばり始めたころ、えこちゃんがいなくなった席に仁田がジョッキを持ってやってきた。

「ほどほどにね」

 多分、私はそれほどお酒に弱いわけじゃないと思う。めいっぱい飲んだことないからわかんないけど、サワーを2、3杯飲んだくらいじゃ、人が言うような酔っぱらっている、って状態にはならない。と思う。


「お前、恵大だっけ? なんかサークルとか入ってる?」

 真っ赤な顔をした仁田は、すでに酔っているようだった。

「ううん、何もやってない」

「なんだよ、つまんない学生生活だな」

「研究室は面白いわよ? そういうあんたは、なにかやってんの?」

「俺?」

 そう言うと、にやりと仁田は笑った。

「ラグビー」

「ラグビー? 仁田って、確か高校んときはバレー部とかじゃなかったっけ?」

「大学行ったら勧誘されてさ。やってみたらこれがけっこ楽しいんだわ。みてみ、ほれ」

 そう言って、仁田はTシャツの腕をめくりあげる。すると、鍛えられた筋肉質な腕があらわれた。