「大丈夫よ。まだ食べられるから」
「まあ普通の神経持ってたら、そんなひどいものを人に食べさせようなんて思わないでしょうけどね」
くすくす笑っている二人に向き直る。
「私が食べるわよ」
「そういうお弁当が、梶原さんにはお似合いじゃない? 身の程を知れ、ってことよ」
「そうそう」
「そうね。私、料理作るのは得意だけど、顔盛ったり媚び売ったりは苦手だから」
「なっ……!」
淡々と言ったら、とたんに彼女たちは気色ばんだ。
「勉強しか取り柄のない鉄仮面のくせに、蓮に媚び売ってんのはあんたじゃない!」
「どうせそのお弁当だって、親にでも作らせてんでしょ? 家庭的アピール? ブスのくせに……あんたなんか、蓮に不釣り合いよ!」
ぐ、と唇をかみしめる。
不釣り合いだなんて……言われなくたって、自分が一番わかっているのに。
背後で扉の開く音がして、美希、と呼ぶ冴子の声が聞こえた。でも、振り向けない。少しでも動いたら……
「あんたなんかどうせ……!」
「みーきーちゃん!」
玉木さんが言いかけた言葉に、陽気な声が重なった。私は、とっさにお弁当の入ったバッグを背後に隠す。
「お昼行こー」
いつもと変わらない上坂が、笑いながら近づいてきた。青石さんたちも、は、としたように口を閉ざす。
私は、後ろ手にしたバッグを、ぎゅ、と握りしめた。
「ごめん、上坂。今日はお弁当作れなかったの」
震えそうになる声を押さえて、いつもと変わらない調子で言った。こんなの……上坂には食べさせられない。
「あら、蓮、かわいそ。お昼ないの?」
わざとらしく言った青石さんが、上坂の腕に自分の腕を絡める。
「きっと梶原さん、お弁当なんて作るの、もう嫌になっちゃったのよ。無理して女の子っぽいことするから、続かなかったのね。それより、私たちもう帰るとこだから、どっか食べに行こうよう」
さっきとはまるで違うトーンの、鼻にかかった甘い声。私には絶対にできない……女の甘え方。
「じゃ」
私は、そのまま足早に昇降口へ向かう。さっさと、その場を離れたかった。
と、後ろから腕をひかれる。振り向くと、上坂が私の腕を掴んでいた。青石さんが、驚いたように後ろで固まっているのが視界の端に映る。そのさらに後ろに、冴子が黙って様子をうかがっているのが見えた。
「でも、お昼一緒って約束したじゃん」
上坂から視線をそらしたまま、私はため息と一緒に言葉を続ける。
「ねえ、もうお昼は」
「行こう」
別にしよう、という私の言葉を遮ったその強さに、思わず上坂の顔を見上げた。笑ってはいたけど、その目はやけに真剣だった。
「上坂?」
私の返事を聞かないうちに、上坂は私を引きずっていく。
「え、ちょっと、待って」
「まあまあ」
「蓮」
後ろから、青石さんのきつい声がとんできた。
「ちゃんとわかってる?」
責めるようなその言葉に、上坂は足をとめた。一拍後に、にっこりと笑いながら青石さんを振り向く。
「わかってるよ」
「……ならいいけど」
納得していないような声で言った青石さんを置いて、上坂は廊下を歩き出す。
「何を、わかってるのよ」
「内緒ー。お昼、行こうか。俺、うまい店知ってるんだ」
「何言って……ちょっと!」
私の抗議なんかどこ吹く風で、上坂は昇降口へと向かった。
「まあ普通の神経持ってたら、そんなひどいものを人に食べさせようなんて思わないでしょうけどね」
くすくす笑っている二人に向き直る。
「私が食べるわよ」
「そういうお弁当が、梶原さんにはお似合いじゃない? 身の程を知れ、ってことよ」
「そうそう」
「そうね。私、料理作るのは得意だけど、顔盛ったり媚び売ったりは苦手だから」
「なっ……!」
淡々と言ったら、とたんに彼女たちは気色ばんだ。
「勉強しか取り柄のない鉄仮面のくせに、蓮に媚び売ってんのはあんたじゃない!」
「どうせそのお弁当だって、親にでも作らせてんでしょ? 家庭的アピール? ブスのくせに……あんたなんか、蓮に不釣り合いよ!」
ぐ、と唇をかみしめる。
不釣り合いだなんて……言われなくたって、自分が一番わかっているのに。
背後で扉の開く音がして、美希、と呼ぶ冴子の声が聞こえた。でも、振り向けない。少しでも動いたら……
「あんたなんかどうせ……!」
「みーきーちゃん!」
玉木さんが言いかけた言葉に、陽気な声が重なった。私は、とっさにお弁当の入ったバッグを背後に隠す。
「お昼行こー」
いつもと変わらない上坂が、笑いながら近づいてきた。青石さんたちも、は、としたように口を閉ざす。
私は、後ろ手にしたバッグを、ぎゅ、と握りしめた。
「ごめん、上坂。今日はお弁当作れなかったの」
震えそうになる声を押さえて、いつもと変わらない調子で言った。こんなの……上坂には食べさせられない。
「あら、蓮、かわいそ。お昼ないの?」
わざとらしく言った青石さんが、上坂の腕に自分の腕を絡める。
「きっと梶原さん、お弁当なんて作るの、もう嫌になっちゃったのよ。無理して女の子っぽいことするから、続かなかったのね。それより、私たちもう帰るとこだから、どっか食べに行こうよう」
さっきとはまるで違うトーンの、鼻にかかった甘い声。私には絶対にできない……女の甘え方。
「じゃ」
私は、そのまま足早に昇降口へ向かう。さっさと、その場を離れたかった。
と、後ろから腕をひかれる。振り向くと、上坂が私の腕を掴んでいた。青石さんが、驚いたように後ろで固まっているのが視界の端に映る。そのさらに後ろに、冴子が黙って様子をうかがっているのが見えた。
「でも、お昼一緒って約束したじゃん」
上坂から視線をそらしたまま、私はため息と一緒に言葉を続ける。
「ねえ、もうお昼は」
「行こう」
別にしよう、という私の言葉を遮ったその強さに、思わず上坂の顔を見上げた。笑ってはいたけど、その目はやけに真剣だった。
「上坂?」
私の返事を聞かないうちに、上坂は私を引きずっていく。
「え、ちょっと、待って」
「まあまあ」
「蓮」
後ろから、青石さんのきつい声がとんできた。
「ちゃんとわかってる?」
責めるようなその言葉に、上坂は足をとめた。一拍後に、にっこりと笑いながら青石さんを振り向く。
「わかってるよ」
「……ならいいけど」
納得していないような声で言った青石さんを置いて、上坂は廊下を歩き出す。
「何を、わかってるのよ」
「内緒ー。お昼、行こうか。俺、うまい店知ってるんだ」
「何言って……ちょっと!」
私の抗議なんかどこ吹く風で、上坂は昇降口へと向かった。