「えーそれでは先月行なったオーディションの結果発表をする。呼ばれた者は返事をするように。」
「はい!」
全体に緊張の空気が走る。
先月、あたし達が行なったオーディションは「2人の少女」という物語の役決め。
マリーという大金持ちの少女が、商人のルイスという男に恋をするが、マリーと瓜二つの少女・ソフィアという恋人がいることを知ってしまう。その2人の少女の葛藤を描く物語だ。
ちなみに主人公のマリーは、ソフィアと瓜二つなので、主役はマリーとソフィアの1人2役を演じることになる。
それが、この物語の重要な所なのだ。
「まず、モーリー役!川崎 奈子!」
「はい!」
「アンナ役!中森 瑠海!」
「はい!」
「ジャック役!土田 啓太!」
「はい!」
次々と役と名前が呼ばれ、返事をする。
時々、選ばれなかった子達のすすり泣く声が聞こえる。
「おめでとう」も「凄いね」とも言わない。
常にピンと張り詰めた空気に支配される。
「エマ役!高野 莉亜!」
「は、はい!」
莉亜の名前が呼ばれた。
まだ、あたしの名前が呼ばれてない・・・・・・。
(どうしよう。名前が呼ばれなかったら・・・・。今までやってきたことが全部水の泡になる!)
「続いてルイス役!安藤 遼!」
「はい!」
爽やかな声が部屋に響き渡る。
(遼くん・・!遼くんも出るんだ・・・・。)
「最後に、ソフィアとマリーの一人二役を演じる主役を発表する!」
いよいよだ。これで最後の発表。
(受かりますように!受かりますように!)
あたしは、拳を握りしめ必死に願う。
「今回の主役は・・・・・・・・・・荒凪真生!」
(え?嘘・・・・・・。あたしが、主役?)
やった・・・・・・!
やったぁー!あたし、主役になれたんだ!!
良かった。あたし、夢を叶えたんだ!
あたしは、小さくガッツポーズをした。
結果発表が終わった後、後ろから声をかけられた。
「荒凪さん。」
「は、はい!」
振り向くと、そこには遼くんの姿があった。
「これからよろしく。一緒に頑張ろうね!」
「う、うん!ありがとう遼くん。」
そう言うと、遼くんはすぐに立ち去ってしまった。
それを待っていたかのように莉亜が近づいてくる。
「真ー生!見てたよ~今の!遼くんと話してたでしょ?何、話したの~?」
(チッ!また来たよ・・・・・・。)
「あ~。舞台、一緒に頑張ろうねって話してたの。」
「ふーん。そっかー。ていうか、遼くん凄いよね~。イケメンだし、演技も上手いし。」
「だねー。」
(・・・・・・ムカつく。この場から立ち去りたい。)
「あ、あたしお稽古やんなくちゃいけないからまたね!」
「うん!またね~。」