「おはよう。ママ。」
「おはよう。真生。」
キッチンにいたママに挨拶をすると、あたしはテーブルに座った。
鼻歌交じりに歌うママを横目で見る。
娘のあたしから見ても美しい母。
あたしの母・薫は、元々は女優志望の役者だったらしい。
いくつかの舞台にも出たし、脇役だがドラマにも出た。
でも、ある大きなドラマの主役出演が決まった時、亡き父との間にあたしが身ごもっていることを知り、やもなく引退した。
「ママの代わりに真生が夢を叶えるのよ。」
小さい頃からことあるごとにそう言われて育ってきた。
ママが喜んでくれる。
ママが認めてくれる。
それが嬉しくて今まで頑張ってきた。
でも、何だか今はそれが苦しい。
「今日は、オーディションの結果発表でしょ?」
「う、うん!そう・・・・・・。」
「そう。頑張ってね。あなたは私の娘だからきっと主役を取れるわ。」
「う、うん。頑張るね・・・・・・。」
あたしは、その思いを隠すようにテーブルに並べられたフレンチトーストを口に運んだ。
その味は、甘くて少し苦かった。
あたしは、朝食を食べ終わるとすぐに劇場に行く準備をした。
「行ってきます。」
ボソッと口に出すと、家の玄関を開けた。