【1-2 亜人奴隷】 

 ルエズス教会はユセリア大陸西側で最大の宗教組織である。西側諸国のほとんどがルエズス教を国教と定め、人々はルエズス教の神を信奉している。ただし、同じ神を信じているとはいえ、国や地方によってさまざまな宗派があり、それらの勢力争いなどで揉めているところも存在している。
 そのルエズス教会の頂点に立つのが教皇である。教皇はルエズス教会の総本山である『聖都レフレンテ』にいる。

 教皇とは神の意志の代弁者である。その教皇が数年前、大陸全土にある宣言を発した。
 亜人も人である。と、先代の教皇であるハルロイ8世がそう宣言した。神の代弁者である教皇が大陸全土に告げたのだ。
 それまで亜人は人として扱われていなかった。しかし、大陸でもっとも影響力があるであろう教皇が彼らを公式に人として扱うよう命じたため状況は次第に変わっていった。
 だが、それでも変わっていない国や地域も存在している。
「私たちは今回、亜人たちの現状調査と待遇改善を王に進言するためにこの国に来たのです。まあ、状況は見ての通りのようですが」
 ユストは助けたルナエルフの女性の衣装を選びながら自分のことを彼女に説明していた。
「いろいろと外からの圧力もあるとは思うのですが。いやはや、頑固なものですよ。ははは」
「……ごめんなさい」
 彼女には何が似合うだろう、と服を選んでいたユストの手が止まる。
「謝る必要はどこにもありませんよ。想定内ですから」
 ルナエルフの女性は肩を落とし申し訳なさそうにうつむいている。
「でも、私のせいで宿を追い出されて……」