男が店の扉をバタンと閉めたのを確かめるとルナエルフの女性のそばに膝をつき彼女の様子を確かめた。
「もう大丈夫ですよ。さ、顔を上げてください」
 震えていたルナエルフの女性は恐る恐る顔を上げ、ユストの顔を見る。
 エルフは美しい。老若男女問わず美男美女ばかりである。それはユストが今しがた助けたこのルナエルフの女性も同様であった。
 絹糸のような長い銀髪、青磁器のような青い肌、肌よりも深い色をした青い瞳。まさに生きた芸術品のようなそんな女性だ。
 だが、その芸術品には傷がある。男の暴力によりつけられた物だろう。それは顔だけではなく衣服から覗く手や足にも無数の傷があった。
 ルナエルフの女性が何事かを話そうと口を開くが、唇を震わせながら口を開くだけで声が出てこない。強い恐怖と緊張のせいで声が出せなくなているのだ。
 そんな女性を見てユストは微笑みを浮かべる。
「大丈夫、大丈夫。怯えなくても。さ、これを」
 そう言うとユストは上着の内側から小さな瓶を取り出す。その小瓶には紫色の液体が満たされていた。
「これは傷を癒す薬です。これを飲んでください」
 ユストは女性に小瓶を渡す。だが、受け取ろうとする女性の手は震えており、彼女は瓶を上手くつかめそうになかった。ユストはそんな彼女の手に蓋を開けた瓶を優しく握らせると、薬を飲むように促した。
「毒ではありませんよ。まあ、毒だったとしても、それはそれでいいとは思いますが」
 ユストはそう言うと改めて彼女の姿を見る。
 ボロボロの服、傷だらけの体、食事を摂らずとも生きられるルナエルフはガリガリにやせ細るということはないが、度重なる重労働と過酷な環境に置かれていたせいか幾分かやせている。そして、その目。
 ユストは女性の目を見る。その目は怯えきっており、そこに希望の光の欠片