何せこの国ではそれは当たり前の光景であり、気にとめることでさえないのだ。
 そんな状態の彼女とユストは一瞬目が合った。だからなんだというわけではないのだが。
「おいくらですか?」
「ああ?」
 男は殴る手を止める。
「これで足りますか?」
 音もなく男の近くに来ていたユストはルナエルフを殴っていた男に小さな袋を差し出す。
「金貨が三十枚。今はこれしかありませんので」
 突然のことに男は戸惑うが、袋を開けて中に詰まった金貨を見てゴクリと喉を鳴らす。
「な、なんだてめぇ。こいつを買うってのか?」
「ええ、その通りです。三十枚では足りませんか? ならこちらもお付けしましょう」
 ユストはそう言うと上着の内側からある物を取り出した。
「これを売れば金貨二千枚はくだらないでしょう。さあ、お納めください」
 ユストは男に取りだした物を渡した。
 それは宝石だ。ウズラの卵ほどもある真っ赤なルビーである。
 ユストは男に金貨の入った袋とルビーを握らせ、男の耳元に顔を寄せるとこうささやく。
「あなたは賢い方のはずだ。正しい選択を」
 そうささやいてからユストは男から離れるとニコリと微笑んだ。男は自分の手の中にある物と地面にうずくまって震えているルナエルフの奴隷とユストの顔を何度も見比べ、こう言った。
「す、好きにしろや。だがな、返せって言ってももう返さねえからな!!」
 男はそう言うと金貨と宝石を手に店の中へと入っていく。残されたユストは