【#01 ユスト・マクシミリアン】

 ユスト・マクシミリアンは自分の本当の誕生日を知らない。彼は赤ん坊の頃、ルエズス教会の運営する孤児院の前に捨てられていた。そのため、誕生日どころか本当の父親の顔も母親の顔も知らずに育った。
 それでもユストは真っ直ぐに育った。捻くれることなく、真面目で、礼儀正しく、心優しく、穏やかな子供であり、孤児院を運営している大人たちの評判も良く、ほかの子供たちとも上手くやっていた。
 ユストは賢かった。読み書き計算はもちろん、神学や法術の才能にも秀でていた。ルエズス教会では、魔法というものは邪なる者たちの使う人を惑わす邪悪なものである、という考えがあり、ユストたちルエズス教の信徒たちは魔法のことを法術と呼ぶことになっている。
 彼は非常に優秀な子供だった。それと同時に、模範的な子供でもあった。
 ユストは大人たちの言うことをよく聞き、よく働いた。自分よりも幼い子供たちの面倒もよく見ていた。年長の者たちの言葉にもよく従い、けれど彼らが間違っていると思えば勇気をもって意見した。まさに見本のような出来のいい少年だった。
 だが、あるとき、それは崩れた。
 最初のきっかけはユストが十歳の頃だ。
 ある日、孤児院で仲の良かった友人の一人が年長者につるし上げられていた。理由は友人が倉庫の食べ物を盗み食いしていた、というものだった。
 友人はそれを否定した。自分ではないと認めなかった。
 だが、友人が倉庫の前でうろうろしているところを何人かの子供たちが見ていた。それに最近、倉庫から食料がなくなっているということが多々あった。そのため、食べ物を盗んだ犯人がその友人ではないか、と疑いがかけられたのだ。
 だが、証拠はなかった。彼が盗み食いをした犯人だという決定的な証拠が欠けていた。