り続けた。
 走る、などここ何年もしたことがなかった。
 若い頃は違った。子供の頃は庭を駆けまわり、召使たちと追いかけっこをして遊び、狩りの練習にと猟犬たちと一緒に亜人の奴隷を追い立てて走り回った。だが、大人になってからは走ることもなくなった。走らなければならないようなことはすべて家来たちが代わりに行った。
 腹の出た中年の男が暗闇の中を泥だらけになりながら無我夢中で走る。命が惜しくて、怖くて、恐ろしくて、息を切らしながら汗だくで涙目になりながら走る。一国の主とは思えない情けない姿で逃げ続ける。
 息が苦しい。肺が痛い。それでも走らなければならない。
 死にたくない。そう、死にたくないのだ。
「し、死んでたまるか。死んで、たまるか!!」
 ロマド三世は走る。暗闇の中を走る。
 そして、見えた。
 光だ。出口だ。
 出口。
「は、ははは、ははははははは!!!!」
 出た。外へ出た。そこは王都の外に広がる森の中だった。
 息を切らしながらロマド三世は後ろを振り返る。そこには化け物はいなかった。
「やった、やったぞ! 逃げ切った! 生き残ったぞ!」
 荒い息の合間にロマド三世はそう叫んだ。自分は逃げ切った、生き延びたんだという達成感の中に彼はいた。
 だが、そんなことはない。
 まだ、試練は続くのだ。
 ロマド三世はその場に座りこむ。運動不足で鈍った体をいきなり全力で動かしたので、一時的に体が悲鳴を上げ、動くことを拒否していた。
 しかし、まだ終わりではないのだ。