【1-7 逃走】

 ロマド三世がしてきたことは今までの国王とあまり変わらない。王としての職務を果たし、政を行い、自分と家臣と国民のために働いてきた。だが、その中に亜人は含まれていなかった。
 彼は国王の座につくために様々なことをしてきた。簡単に言えば権力闘争だ。ライバルを蹴落とし、有力者に取り入り、仲間を増やし敵を減らし、そうしてやっと玉座に座ることができた。その間に様々な苦労があり、そのストレスを晴らすために酒を飲み、女を抱き、亜人を殴り、蹴り、殺したこともあった。自分に力を貸してくれた者に褒美として亜人の奴隷を贈ったこともある。
 すべては当たり前のことだった。この国の王が当たり前にやってきたことであり、王になろうとしてきたものが当たり前に行ってきたことだ。
 何が悪かったのか。なぜこんなことになっているのか。どうして自分だけこんな目に合うのか。ロマド三世はそんな思いを抱きながら走った。
 化け物に追われ部屋を出た。すでに城内には暴徒と化した亜人たちが侵入してきたようで、そこかしこから銃声や悲鳴が聞こえてきていた。ロマド三世はそんなものなど無視して走った。
 助けて、という女性の声を聞いた。だが、ロマド三世は振り向くことなく走った。
 彼には妻と子供がいた。しかし、ロマド三世はそれらに気を向けることなく無我夢中で走った。
 家臣がどうなろうと見向きもしなかった。化け物が怖くて振り返ることができなかった。
 彼はとにかく逃げた。城の中を走り、いざというときのために作られた秘密の隠し通路の入り口を開け、地下へと潜り、真っ暗な地下道を壁伝いに、時折つまづいて倒れ泥だらけになりながら走り抜いた。
 とにかく逃げた。命が惜しかった。なによりも恐怖が勝った。
 地下道は王都の外にまで続いていた。ロマド三世はとにかく真っ暗な道を走