レプレティウスの槍の場合は使用者の心を破壊する。別名『魂を喰らう槍』とも呼ばれている。
 ルエズス教の本拠地である聖都が所有している神器のひとつに『バダンの剣』というものがある。これはその力を使用する際、使用者の命を喰らうため別名『死の聖剣』とも呼ばれている。
「さあ、どうしますか? ここで槍を使いますか? そうなるとこの城だけでなくこの王都も道連れとなりますが」
 覚悟があるのか。この小国の主に自らの命を犠牲にする覚悟があるか。
 あるようには、見えない。少なくともユストの目には目の前の男にそんな覚悟があるようには思えなかった。
「まあ、使うか使わないかはお好きにどうぞ。ああ、それと、急がないとこの子たちだけでなく他の方々もなだれ込んできますよ」
 そう言うとユストは部屋の窓の方へと目を向ける。微かにではあるが外の喧騒が、叫び声が、足音が、銃声が聞こえてくる。
「ほら、早く逃げた方がいいですよ? 戦って勝てると思うのならば別ですが」
 化け物がロマド三世に飛びかかる。ロマド三世は情けない叫び声を上げながらそれを剣で受け止め、何とか押し返し、よろけながら逃げ出した。
 ユストはそれをただ見送る。追いかけることなく、部屋の外へと走り出していく国王を、それを追いかけていく化け物たちを笑顔で見送った。
「さあ、試練ですよ。あなたが正しいのならば、きっと生き残る」
 部屋に一人残ったユストは天井を見上げる。しかし、その視線は天井に向けられていたが、天井を見ているわけではなかった。
 ユストは見ていた。遥か彼方、天のさらに先の、彼の信じている神がいるであろう場所を見つめていた。