そう言うとユストは先ほどと同じように二度手を打ち鳴らす。
「それに、今となってはわからない。聞く前に殺してしまいましたから」
 死体が、現れたときと同じように沼に沈んでいくように消えていく。
「さて、本題に入りましょうか」
 ユストは笑顔だ。いつも笑顔を絶やさない男だ。それは今も同じだ。
 笑顔で誰かを助け、笑顔で弱き者のために働き、笑顔で人に地獄を与える。
「私はあなたが今までどんなことをしてきたのか詳しくは知りません。しかし、この街を見て、王都の姿を見えて、この国の現状を資料で読み、ある程度は理解したつもりです」
 だからなんだ! とロマド三世は声を上げようとした。が、何かに気付きそれを飲み込んだ。
 ユストの影が動いている。
「あなたのしてきたことはこの国では当たり前だったのかもしれません。この国の人々が行ってきたことはこの国にとっては普通のことだったのかもしれない。ですが」
 影が音もなく生き物のように広がっていく。
「私にはあなたがしてきたであろうことや、あなたが正そうとしなかったことが良い事とは思えない」
 影の中から何かが顔を出す。しかし、なんだかわからない。
 それは犬のような、豚のような、蜘蛛のような、魚のような何かだった。
「そう、良い事とは思えない。神の正義にかなうとは思えない。ですが、あなたは生きている」
 数匹のなんだかわけのわからない羊ほどの化け物が姿を現す。
「生きている、ということは、正しいということです」
 ロマド三世は手に持っていた武器を構える。だが、その手も体も恐怖で震えていた。
「神の正義にかなっているのならば、正しいのならば、生は続く。その正義に反し、邪であるならば、滅びる。簡単なことです。実に簡単で、実にわかり易い。ですが、私にはわからない」