たせ武器を振り上げる。
 命乞いをしている者もいる。声を出すこともできず怯えきっている者もいる。
 そして、それらはすべて人間たちだった。
 亜人たちは声を上げなかった。表情もなかった。亜人たちはただ淡々と人間たちを襲い、殺し、燃やしていた。亜人たちは誰も眉ひとつ動かすことなく残虐な行為を行っていた。
 そんな亜人たちを見てユストは満足げに頷く。
「ああ、皆の努力が実りました。蒔いた種が芽吹きました」
 種。そう、種をまいていたのだ。ユストたちエルズス教会の者たちは、何度もポルス王国を訪れ国王を説得してきた使節団の者たちは、この国に種をまいていた。
 感染型精神汚染魔法。ポルス王国を訪れた使節団の者たちはこの国を見て回り、亜人たちの現状を調査し、彼らに触れ合うことで少しずつ種を、彼らに魔法をかけて来た。その魔法は少しずつ、少しずつ広がってゆき、この国にいる亜人たちの心に染みわたっていった。その魔法が彼らの感情を消し去り、彼らをただひとつの命令のみを果たすためだけに動く人形にしてしまった。
 人間を殺せ。という命令を実行するための生きた道具となったのだ。
 ユストの仲間たちがまいた種が根をはり、芽を出した。そして急速にその茎をのばし、実を結ぼうとしている。ユストはその実り始めた成果を眺めながらゆっくりと、まるで観光でもしているかのような足取りで地獄と化していく王都を進む。
 すべては人の世のため、亜人のため、エルズス教のため、そして神の正義のためである。
 ユストは進む。彼も彼の目的を、彼に課せられた使命を果たすため目的地を目指して進む。
 目指すはユストの視線の先、王都の象徴でありこの国の主である国王の住まう王城だ。