得がないからだ。少なくもポルス王国は亜人を人と認め彼らを奴隷階級から解放するメリットがないと考えているのだ。
 それとは逆にルエズス教は亜人たちの人としての権利を認め、彼らを守ることを自分たちにとって得になることだと考えている。
 そう、得なのだ。亜人を人と認めて受け入れることの方がルエズス教にとっては得なのである。
 亜人がこの世界に現れて約二百年。その間に彼らは当初とは比べ物にならないくらいに数を増やした。無視できないほどにまでその数は増している。
 数は力である。信仰の力というのは数の力でもある。ルエズス教、特にその本拠地である聖都はそのことをよく理解している。人と亜人、両方を引き入れ、ルエズス教の教えに従わせ、彼らを信者にした方が得であるからルエズス教は亜人を人として認め、彼らを守る動きを見せている。
 ルエズス教は巨大である。ユセリア大陸西側のほとんどの国がルエズス教を信仰しており、その国を治める王や皇帝さえ、ルエズス教の教皇を恐れている。
 信じる者が多ければ多いほど力は増す。その数の力を権力者たちは恐れている。
 と同時にもう一つ恐れている物がある。
 それは『神器《じんき》』と呼ばれる物である。
 神器はその名の通り神の力を宿した器だ。ただ、本当に神の力が宿っているかは定かではないが、神の力が宿っていると人々に思わせるほどの強い力を宿しているのは確かである。神器をひとつ手にした者は三つの国を束ね、神器をふたつ手にした者は十の国を支配できる。とさえ言われるほどだ。
 そう、ひとつ、ふたつ、というように神器は複数存在する。そして、その神器をルエズス教の本拠地である聖都は三つ所持している。
 神器の総数は十三器。実際に確認されている物もあれば、今のところ伝承でしか確認されていない物もある。大陸の国々を治める権力者たちは数の力と、この神器という『圧倒的暴力』も恐れていた。それを恐れるからこそ彼らはルエズス教を受け入れ、聖都に従っているのである。