「この色合いと肌触りは、ルナエルフの物ですね?」
「いやあ、お客さんお目が高い。そう、ルナエルフですよ」
 ユストは眼鏡の奥の目をスッと細め、青白い色をした革のバッグを眺める。

 亜人には様々な者たちがいる。力が強く体が大きく頭に角を持つ『オーガ』、獣と人を合わせたような姿をした『ビースト』、小柄な体躯の金属加工に長けた『ドワーフ』、そして美しく長命で奴隷としての人気の高い『エルフ』。ユストが手にしているバッグはエルフ種のひとつである『ルナエルフ』の革で作られた物である。
 エルフには大きく分けて三つの種類がある。白い肌の者たちを『ノーマルエルフ』、黒い肌の者たちを『ダークエルフ』、そして青白い肌をした者たちを『ルナエルフ』と呼ぶ。そして、それらにはそれぞれ特性があり、その中でもルナエルフは特殊な者たちだ。
 エルフは非常に長命である。ユスト達人間の何倍もの時を生き、五百歳以上の者もいる。しかし、そんなエルフの中でもルナエルフは短命で、平均して百五十年ほどの寿命しか持たない。逆に言えば他のエルフよりも成長が早いということであり、それは家畜としては都合がいい。それに加えてルナエルフにはもう一つ大きな特徴があった。
 ルナエルフは食事をしない。彼らが生きるのに必要なのは水と月の光だけである。彼らルナエルフは月の光を糧として生きているのだ。つまり、餌代がかからない。
 成長が早く、餌を必要とせず、労働力としても加工品としても使える。こんなに都合の良い生き物はいない。
 まさに家畜である。人の姿をしてはいるが彼らは牛や豚と同じ扱いを受け、ポルス王国では現在も養豚場ならぬ養エルフ場が存在している。「非人道的、と言わざるを得ませんねぇ」
 と、ユストはカバンを眺めながら静かにつぶやく。