「すいません、嫌なことを」
「いいえ、私の方こそ……」
 彼女は涙をぬぐう。
「それよりも、本当に大丈夫なんですか?」
「なにがですか?」
 ユストは彼女の質問に不思議そうな顔をする。
「こんなところで、食べ物だって」
「ああ、そのことですか。問題ありませんよ。修行だと思えば大したことはありませんから」
 そう言うとユストは今いる場所を見渡してからニコリと微笑む。
「雨風はしのげますし、幸い今の時期は夜もそれほど冷えませんから。それで十分ですよ」
 ルナエルフは物を食べない。水と月の明かりだけで生きていける。だが、ユストは人間である。当然、何かを食べなくては生きていけない。
「あなたは優しい方だ。きっと神もあなたのことをちゃんと見てくれていますよ」
「そうで、しょうか……」
 自信なさげな彼女に対しユストは力強く頷き、そして何かを思いついたのかポンと手を叩いた。
「そうだ。いい方法を思いつきました」
 ユストはそう言うと椅子から立ち上がり、床に置いてあるスーツケースを開ける。
「あの、何を」
「名前ですよ、名前」
 名前。そう、名前である。ユストは名前を奪い取られた彼女のために名前を付ける方法を思いついたのだ。
「私が勝手につけるのもいいかと思いましたが、それよりも」
 スーツケースを漁っていたユストはあるものを取り出してテーブルの上に置