と言えるだろう。
 それにユストにはユストの事情がある。
「しせつだん?」
「ええ、使節団です。私の所属するルエズス教の総本山である聖都から教皇の言葉を伝えるために派遣された人々ですね」
 ポルス王国には現在、ユスト以外にもルエズス教の関係者が来ている。彼らは国王と国に対して亜人たちの解放と待遇改善を要求しに来た。しかし、ユストは彼らとは別行動を取っている。
 ユストにはユストの仕事がある。
「すいませんね、私ばかり難しい話を」
「いえ、ごめんなさい。私がこの世界のことを良く知らないから……」
 二人は廃墟に残されていた椅子に座り、向かい合って話をしている。
「この世界のことを知らない。ということは、あなたはこちらの生まれではないのですね?」
 その問いかけに彼女は静かにうなずく。
「私は兄と二人で暮らしていました。小さな村で、平和に……」
 エルフやその他の亜人はもともとユストたちの世界である『アルフェシア』には存在していなかった。その亜人を召喚魔法で呼び出し、奴隷として使役し始めたのは二百年前。その二百年の間に亜人たちはユストたちの世界で代を重ね、アルフェシア生まれの亜人というものが誕生した。そして、そのアルフェシア生まれの亜人は今も増え続け、異世界から輸入される亜人たちの数は減っている。
「静かな村でした。大きな争いもなく、本当に平和で。なのに、突然、村ごとこの世界に連れてこられて。それで、兄は、私の目の前で……」
 彼女は言葉を詰まらせる。
「村の、みんなも、抵抗する人は、容赦なく……」
 思い出したくもない事だろう。辛い、の一言では片づけられない経験をしてきたのだ。
 だが、これが亜人の現実である。アルフェシアの亜人は地獄を生きている。