「あの、本当に」
「謝るのはナシですよ。私は神のしもべとして当然のことをしたまでですから」
 彼女は自分の服の入った袋を手に、ユストはスーツケースを片手に街を歩く。彼女は今まで身に着けていたボロ布ではなく、ポルス王国の一般的な街娘風の服に着替えていた。
 だが、彼女がエルフであるというのはどうやっても隠すことができなかった。とくにルナエルフはどんなに隠そうとしても肌の色でわかってしまう。その特徴的な青い肌を隠すには化粧でもしなければ難しいだろう。それにまだ、彼女の首には首輪がはめられている。
 奴隷の首にはめられている首輪には魔法がかけられている。それは主人の意思に背いたり、主人を害する意思を抱いたりした場合、彼らの首を絞める。奴隷たちが反抗しないためにその魔法の首輪ははめられているのだ。そして、その首輪は時に、主人の機嫌が悪い時に彼らの首を絞め、ふざけて遊び半分で彼らを苦しめることもある。無理やり外そうとすれば当然の如く彼らの首を容赦なく締め上げる。
 そして、もう一つ。首輪や境遇の他に彼らや彼女を苦しめるものがある。
「そう言えば、まだ名前をお聞きしていませんでしたね」
 共に歩いていた彼女はユストのその言葉にビクッと身を震わせて足を止めた。
「な、まえ。名前は……」
 彼女は震えながら口を開く。おそらく自分の名前を言おうとしたのだろう。
 だが、声が出てこない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 彼女はそう言うと涙を流し始めた。
 亜人は人ではない、物である。奴隷は人ではない、道具である。人ではないただの物に名前は必要ない。ただの道具にいちいち名前を付ける馬鹿がどこにいる。
「奴隷は名前を剥奪される。そうでしたね。申し訳ありません、配慮が足りなせんでした」