「想定内ですよ。こうなることはわかっていましたから」
 ユストはそう言って、大したことではないよ、と彼女を安心させるように笑顔を見せる。
「この国は亜人への差別が強い。奴隷として雇うならまだしも、客として扱うのは嫌がるでしょうね。わかっていましたよ」
 彼女は本当に悲しそうにうつむいているが、ユストは現状をまったく意に介していないのか、にこにこと微笑んでいる。
「大丈夫、何とかなりますよ。ほら、これはどうです?」
「あの、お客様……」
 気にせず服を選ぶユストに従業員の男性が声をかけてくる。
 しかし、ユストはそのことも予想済みだったようだ。
「出て行けというんでしょう? わかっていますよ」
「だったらさっさと」
 亜人差別が強いこの国で亜人を『客』として扱う店はほとんどないだろう。と、言うのはユストも予想はついていた。
 だから、そう言うときのためにこれがある。
「もう少ししたら出ていきますから。……これを」
 そう言うとユストは男性従業員に金貨を数枚握らせる。男性従業員はユストが渡してきた金貨を見て、その次にユストの顔を見る。それから男性従業員は黙って金貨をポケットにしまいニコリと笑ってから無言で去っていった。
「本当にお金というものは便利ですねぇ」
 ユストはそうつぶやくと再び服選びを始め、三着ほどの服を選び、彼女を着替えさせそのまま代金を払って服屋を出た。
「三着で金貨二十枚ですか。いやいや、ぼったくりもいいところですよ。ふふふ」
 服屋の商品には値札はついていなかった。しかし、三着で金貨二十枚というのは明らかにおかしい。おそらく、店側が相手が亜人だとみて足元を見たのだろう。だが、ユストはそんなことお構いなしにさっさと代金を支払って店を出た。